2008/7/13

埼玉近美/アーサー・ビナードさん講演会  館外展・関連企画

午後3時から埼玉県立近代美術館の講堂で、アーサー・ビナードさんの講演会「絵の居場所 丸木スマが輝く時代」が行われました。定員100名の会場はほぼ満席でした。
ビナードさんは、1967年米国ミシガン州生まれの詩人で、日本語で詩を書き、2001年に中原中也賞を受賞。現在は詩作のほかに、エッセイや絵本、ラジオのパーソナリティの仕事など多方面で活躍しています。
そして、以前から丸木スマの絵のとても良き理解者でもあります。
今回は、前日に青森放送でラジオの収録があり、当日も午前中に別の場所で講演会を行うという多忙なスケジュールのなかを、わざわざかけつけて下さいました。

クリックすると元のサイズで表示します

ビナードさんがスマについての講演をされるのは今回が2回目になります。
前回は2006年8月6日の「丸木美術館ひろしま忌」。
そのときには、「張り合わんけんの スマさんの絵をめぐって」と題し、
「スマさんは、70歳を過ぎて絵を描きはじめましたが、同じようにおばあさん画家として知られるグランマ・モーゼスと比べると、活躍した期間が非常に短いんですね。そのため私は“夭折した画家”と考えています」
「スマさんのような画家を、従来の芸術の世界の外に位置する存在という意味で“アウトサイダー・アート”という呼び方をしますが、スマさんには“アウトサイダー”という言葉が似合わない。むしろ、対象物の外観をとらえるのではなく、日常生活や性格などを内側から描くという意味で、あえていえば“インサイダー・アート”の画家だと思います」
「スマさんの絵を見ると、高齢社会の問題も考えさせられます。スマさんの絵は、私たちに70歳を過ぎてからの可能性を示してくれます。また、安易な危機意識に振り回されないための足場になる力をもっています。人は老いると今まで見えなかったものが見えてきます」
……というような、独特の持論を語って下さいました。

今回は、そのときのお話をベースにしながら、日本や米国の詩を引用して、スマの世界の奥行きの深さを紹介して下さいました。
たとえば、室生犀星の《駱駝》における擬人化・デフォルメの妙味とスマの絵の共通性。
グレイス・ペイリーの自然への畏れと、スマが自然から学び取った生死と向きあう姿勢。
ジョン・モフィットの「何かを見るとき、見ているものになりきらないとそれを見たことにはならない」という詩と、スマの自然観察の積み重ねの厚み。
なかでも、ロングフェローの「いまわの挨拶」という詩は(以前にもビナードさんが朝日新聞のコラムで紹介されていましたが)、スマの絵の魅力と可能性をよく連想させてくれます。

For age is opportunity no less
Than youth itself, though in another dress,
And as the evening twilight fades away
The sky is filled with stars, invisible by day.


見栄えは違うが、本当は老いが、若さに
負けないくらいの可能性を孕んでいる。
日が沈み、夕闇が迫ると、昼間はまったく
見えなかった星が、天いっぱいに現れる。


ビナードさんの話は次第に熱を帯び、スマ作品を絶賛する言葉に会場も大いに盛り上がります。
「スマさんの《ひまわり》とゴッホの《ひまわり》なら、私はスマさんの《ひまわり》をとります。まったく保険会社は何をしているんでしょうね(かつて某保険会社がゴッホの真贋不明?の《ひまわり》を数十億円で落札した件を指す)。でも、スマさんの絵を億の値段で売ってくれと言われたら、丸木美術館はどうします? 売らない? でも運営が厳しいからね?」
「スマさんの《めし》は世界に誇る名作です。大きな美術館でモネといっしょに展示したら? モネがちょっとかわいそう。スマさんの作品の強度に負けてしまう」
「日本の食糧自給率が低下していますが、スマさんは自給率100%の人だったんですね。それが絵にも表れている。今度丸木美術館で展覧会のタイトルに使ってください。“自給率100%!”って。いや、“自給率120%!”がいいですね」

   *   *   *

埼玉近美の担当学芸員Oさんは、講演の後の挨拶で、「美術の作品を文学など他の分野から語るのはとても面白い試みだと思います」とおっしゃっていました。
会場の方々も、ビナードさんのユーモアあふれる語り口に、とても満足されていた様子です。
一応、講演のお膳立てというか、出演交渉の口利きをした立場としては、ひと安心でした。

ビナードさんは、文化放送で毎週木曜日の朝6時30分からラジオ番組のパーソナリティを担当されています。こちらの方も、ちょっと宣伝。早起きの方は、ぜひお聴きください。
今回の講演会では、番組内でも案内をして下さったので、リスナーの方もずいぶん来られていたようでした。
1




※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ