2016/4/22

第41回木村伊兵衛写真賞授賞式  館外展・関連企画

午後6時から、如水会館にて行われた新井卓さんの第41回木村伊兵衛写真賞式に出席しました。

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「写真界の芥川賞」とも呼ばれる、たいへん栄誉ある賞です。
新井さんは2012年夏に、丸木美術館で個展を開催して下さっていますが、今回は、そのときの出品作も収録されている写真集『MONUMENTS』が認められての受賞となりました。

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審査員の石内都さんが、「最初から、今年の受賞者は新井さんしかいない、と強く推していた」とおっしゃっていましたが、それは本当に無敵の援護射撃だったことでしょう。

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新井さん、石内さんを囲んだ第五福竜丸展示館の山村さん、安田さんも歓喜の笑顔です。

実は数日前に、新井さんから授賞式の祝辞を頼まれました。
正直なところ、去年の原爆の図アメリカ展のボストンやニューヨークの講演よりも、ずっと緊張していたので、無事に務め終えてほっとしています。
以下、その全文を掲載しておきます。
新井さん、本当におめでとうございます。今後のさらなる活躍を期待しています。

   *   *   *

新井卓さん、このたびは、木村伊兵衛写真賞受賞、本当におめでとうございます。

わたしがはじめて新井さんの作品を見たのは、三軒茶屋のKENという小さな地下のスペースでした。シャーレの中の「死の灰」、つまり第五福竜丸に降り注いだ放射性降下物を、ダゲレオタイプで撮影した作品です。

この写真を撮影したのは、2011年3月11日の午後だったと聞きました。
東日本大震災が起きたその時間に、ちょうど撮影に取り組んでいたということです。
その震災が福島第一原発事故を引き起こし、新井さんは核と人間の問題を追い続けることになるのですから、今思えば重要かつ運命的なエピソードでした。

デジタル技術が進化を極める時代にあって、あえて銀板を磨き上げて、手間のかかる作業をみずからに課していることにも共感しました。
何より、その丹念な手わざから生み出された映像の神秘的な輝きに、強く心を惹かれました。
目を凝らして見ようと近づけば儚く消えてしまう、現実でありながら幻想のような、鏡の中の淡い影。
それがわたしには錬金術師の秘術のようにも思われて、その後も新井さんの展覧会を追い続け、丸木美術館でも個展を開催しました。

あれから5年の歳月が過ぎました。
第五福竜丸、福島、そして広島、長崎、米国トリニティ・サイト。
新井さんは、人間と核の歴史に出会い直し、記憶する旅を続けています。

芸術には、究極の美や先鋭的な表現を拓くだけでなく、目の前の現実の奥にひそむ「芸術的真実」を探求し、人びとの前に示す役割があります。

飯館村の野に咲いた白いヤマユリ、あまりにきっかりと11時2分を指したままの長崎の時計、広島市上空の高度570メートルに輝く太陽。そして多焦点のつらなりから浮かび上がる第五福竜丸、原爆ドーム……
昨年秋に刊行された写真集『MONUMENTS』には、新井さんが旅の先々で拾い集めた、秘儀の啓示が収められています。
時間の経過による忘却や、消滅にあらがうための「極小のモニュメント」です。

古来より、人は、大切な記憶をつなぎとめ、世代を超えて伝え残すために、さまざまな工夫を凝らしてきました。
それは壁画や絵巻であったり、口承の叙事詩や民潭であったりしました。

残念なことに、70年前、人類は禁断の扉を開いてしまいました。
その結果、地球上のあらゆる生き物が、否応なく、核の脅威と隣り合わせに生きる時代が到来しました。

この痛みと悲しみを、私たちは、記憶に刻みこまなければなりません。
なぜなら、過去の記憶は、未来の予兆となるからです。
だからこそ、忘却をいざなう力もまた、根強く、手ごわい。
忘却にあらがうための「モニュメント」は、美しく、したたかでなければなりません。

例えをあげれば、丸木位里・丸木俊夫妻の《原爆の図》。
ベン・シャーンの《ラッキードラゴン・シリーズ》。
そして林光の紡ぎ出した巧みな旋律に乗って歌われる、原民喜の詩のように。
新井さんのダゲレオタイプも、そうした美しくしたたかな表現の系譜に連なります。

彼が選び取った道は、険しく、長く、果てしなく続いていくことでしょう。
必ずしも、報われることの多い仕事ではないかもしれません。
だからこそ今は、この木村伊兵衛写真賞という最高峰の栄誉が授けられたことを、心から喜びたいと思います。

ダゲレオタイピストに祝福を。
真実を求める者に、幸いあれ。
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