2014/1/22

Ring Bong第4回公演『しろたへの春 契りきな』  他館企画など

Ring-Bong第4回公演『しろたへの春 契りきな』を観ました。
文学座の山谷典子さんが主宰し、年に1度の公演を行っている演劇集団にも、すっかり顔なじみになりつつあります。

山谷さんの書く脚本は、毎回、戦争の時代と現代を行きつ戻りつしながら、共通する問題意識を浮かび上がらせるという作りになっています。
今回の『しろたへの春 契りきな』の舞台は、1942年の京城(現在のソウル)と現代の日本。
京城で写真館を営む日本人家族と、その家に仕える朝鮮人の女中や書生たちの物語です。

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過去3回のRing-Bongの公演は、演劇という約束事を逆手にとるように、年配の俳優さんが現代と過去を生きるひとりの男性の「老年」と「少年」を効果的に演じ分けていましたが、今回は逆のパターン。主人公の芽という写真館の末娘役を演じた若い俳優さん(小野文子さん)が、ひとりの女性のふたつの年齢を演じ分けているのです。

年配の俳優さんが、場面が変わったとたんに突然少年らしく振舞いはじめるのは、コミカルで微笑ましく感じられるのですが、若い俳優さんが(メイクも衣装も変えないまま)老女へと年齢の変化を演じ分けるのは、かなり難しかったのではないかと思います。

けれども、実際に公演を観て、今回の舞台にとってこの配役は重要な意味を持っているのだと理解しました。
認知症の老女が、「京城」という今は存在しない追憶の街に生きる「14歳の少女」を内包している感じがよく伝わってきて、とても「かわいらしい」(と表現すると、劇中の「芽さん」に叱られてしまいそうですが)年齢を重ねた女性に見えてきたのです。

家族のなかで最年少だった彼女は、日本の朝鮮半島支配と差別構造に対し、もっとも“無垢”な存在でした。「京城」が幸福な記憶として存在するのもそのためでしょう。
そのあたりは、美術家の出光真子の映像作品《直前の過去》(2004年)を連想します。
一見、平和で幸福な家庭を支えているのは、日本の植民地政策による搾取の構造。

しかし、物語が進むにつれ、実は彼女こそが“家族”や“国籍”といった枠組みを揺さぶる大きな秘密を抱えていたということが、観客に明かされます。
その秘密を、当の彼女や、現代の娘や孫たちは、どうやら知らされていないようです。
国を奪われ、言葉や文化を奪われた者たちの“恨”の思いの深さを、現代の日本を生きる私たちは知らない。
搾取の時代を生きる張本人たちさえ、無神経にも気づいていない。
日本と朝鮮半島のあいだに横たわる深い歴史の記憶の溝を、暗示しているかのようです。

もっとも、彼女の存在は、たんに「歴史の記憶の溝」を示すだけにとどまらず、“国家”や“民族”といった実は曖昧な境界によって隔てられた「近くて遠い隣人」の関係ではなく、「同じ人間」として共に生きていきたいという山谷さんの思いが反映されているようにも思います。
深く、重いテーマであるにもかかわらず、観終わった後に、それでも前を向いて生きていこうと清々しい気持ちになれるのは、彼女の脚本の力がなせる業でしょう。

もちろん、ソウルの南大門刑務所などの歴史をめぐる緻密な資料調査は、彼女の真骨頂。
今回も作品の奥行きを豊かなものにしています。
ピアノ演奏などで工夫を凝らして見事に表現される場面転換も見どころのひとつ。
演出の小笠原響さんの確かな力量もあって、Ring-Bongの舞台は、回を追うごとにより深く作りこまれ、世界が広がっているように思いました。
公演は1月26日まで。ぜひ、多くの方に見て頂きたい作品です。

   *   *   *

そして、2015年3月に予定される第5回公演は、なんと丸木美術館から想を得たという『闇のうつつに 我か我かは』に決定したそうです!
昨夏、朗読劇として執筆した作品を、今度は演劇として大幅に加筆するというので、これは楽しみなような、ちょっと怖いような。
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2014/1/24  11:26

投稿者:okamura

小野文子さま
コメントありがとうございます。
今回の作品は、一人の女性のなかに存在するふたつの「時間」が、とても印象深く感じられました。
そして、彼女にとって大切な「幸福な記憶」が、ほかの誰にとっても、必ずしもそうではないと思われる不条理も。
本当に、素晴らしい舞台を見せて頂き、ありがとうございました。

2014/1/24  0:53

投稿者:小野文子

「しろたへの春契りきな」にご来場いただきありがとうございました。
記事を拝見して大変嬉しくコメントさせていただきました。
実は台本の初めに二枚の写真の存在が載っているんです。それは、芽の頭の中で描き出された写真なのだと私は思っているのですが。。。
86歳の芽と一緒に居ますと、きっと彼女の心や頭の中には、山積みになった写真や映像があり、それを残された時間で整理しながら、体感出来るのだろうと思わせてくれるのです。
激動の時代を歩んでこられて、たくさんの写真があるけれど、大好きな場所に大好きな人たちと一緒にいた「あの時」なんでしょうね。
実際に観てはいないのですが、「直前の過去」を調べていて、作品にリフレインされるオルゴール「ママ、僕は兵隊になんかなりたくないよ。」
理論ではないその気持ちを毎日、芽とかみしめています。


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