2013/8/24

神奈川県立近代美術館葉山「戦争/美術」展小沢節子さん講演会  館外展・関連企画

神奈川県立近代美術館葉山で開催中の「戦争/美術 1940-1950 モダニズムの連鎖と変容」展。その関連企画として開催された近現代史研究者の小沢節子さんの講演会を聞きに、展覧会に足を運びました。

波の音が心地よい美しい海辺の美術館です。
海水浴客の声が、潮風に乗って聞こえてきます。

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展覧会は、基本的には1940年(実際には山口蓬春の《立夏》など、1935年頃)からはじまり、時間軸に添って1950年(こちらも実際には朝井閑右衛門の《電線風景》が描かれた1960年)までの作品が紹介されていくという構成。
戦争に翻弄されながら、美術家たちの表現はどのように展開されていったのか……といっても、戦時=抑圧、戦後=解放という従来考えられてきた分断の歴史ではなく、1940年代の表現の連続性を再考するという内容でした。
そして、そんな複雑かつ豊饒な可能性を秘めた時代の結実として位置づけられるのが、丸木夫妻の《原爆の図》というわけです。

もっとも、1940年代を象徴する作品を網羅的に回顧するというわけではなく、同館のコレクションの根幹を形成する松本竣介、朝井閑右衛門、麻生三郎、鳥海青児、山口蓬春などの作品を軸としているので、1951年に開館した神奈川県立近代美術館の文化的背景を見つめなおす、という意味が大きいのかも知れません(丸木夫妻も当時、葉山にほど近い藤沢市の片瀬で《原爆の図》を制作していました)。

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小沢節子さんの講演内容については、10月発行予定の『丸木美術館ニュース』第115号にて抄録を掲載する予定ですが、印象に残ったのは、副題で「モダニズムの連鎖と変容」と記されたこの展覧会の本質を、「表現の連続性と思想の非連続性」という言葉で論じられていたことでした。
1945年8月の敗戦をきっかけにして、作者の意識は当然のように断絶/変容していくのですが、意識下の表現の世界では連続している。それはもちろん、《原爆の図》を描いた丸木夫妻にも言えることです。作者の言葉を読むことは大切だけれども、それだけに引きずられるのではなく、言葉によらない/作者の意図を超えた無意識の表現こそが、絵画の面白さである、という指摘は、この時代を考える上では、とりわけ重要な問題であるように思いました。

また、小沢さんが挙げられていた今展の問題点に「ジェンダー&ポストコロニアルな視点の欠落」があったことも記憶しておきたいところです。
前後期の展示替えをあわせて198点の出品作品のなかで、女性作家は丸木俊(赤松俊子)ただひとり。その丸木俊も、神奈川県立近代美術館所蔵の作品は1点もありません。
これは同館の意識の問題というよりは、従来形成されてきた美術史がいかに男性中心的な視点であったかの表れなのだと思います。
そして1940年代という時代が、植民地主義/帝国主義に深く関わる時代でありながら、今展に「支配される側」の視点からの作品がほとんどなかったということも、やはり従来の美術史がいかに中央主義的な視点であったかを、考えさせられました。
小沢さんはその今展の欠落を辛うじて埋める存在として丸木俊の仕事――とりわけ、当時の「南洋群島」パラオで現地の人々と心を通わせながら制作した一連の作品を評価されていましたが、そうした評価は今後もさらに重要度を増してくるのではないかと思われます。

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同様の意味で、今展の出品作のなかでは、鳥居昇という画家の描いたチマ・チョゴリをまとった《老婆像》が新鮮な発見でした。鳥居の経歴については私はほとんど何も知らず、ただ1943年という時代にとても温かい視線で朝鮮人女性をモデルに油彩画を描いた画家がいたということに驚きを感じたのですが、会場の展示解説や図録に、そうした周辺情報が紹介されていると、よりありがたいとは思いました(水沢館長が図録の論考で触れられていた、靉光と丸木夫妻の表現の連続性も展示を見るだけでは簡単には感じとれないし、版画家の上野誠が1952年に原爆の図新潟巡回展を組織した際に制作したポスター《戦争はもういやです》が原爆の図とならんで公開されるのはおそらく初めてのことではないかと思うのですが、そうした説明も一切ありません)。
年譜のなかにもぐりこんでしまったかのように、ほとんど最低限の年号表記しかないシンプルな会場構成は、それはそれで斬新だとは感じたのですが……。

展覧会は、8月27日(火)から10月14日(月/祝)まで後期展示が行われます。
原爆の図は、前期に展示されていた第1部《幽霊》、第3部《水》が27日に丸木美術館に返却され、修復を終えてこの日に葉山へ直接搬入された第2部《火》、第4部《虹》が後期展示として公開されます。
私も後期展示を観に、もう一度足を運んでおきたいと思っています。
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2015/3/25  11:00

投稿者:okamura

山口さま

そうでしたか。ご教示ありがとうございます。
また4月から神奈川県立近代美術館葉山で日本と朝鮮の関係をさぐる興味深い展覧会が開催されるとのこと、鳥居先生の作品を再見できることを楽しみにしています。
 岡村

2015/3/18  15:45

投稿者:山口 学

岡村様
横浜翠嵐高校出身の山口です。在学中鳥居昇先生の教えを受けました。安井曽太郎画伯の指導を受けたとおっしゃっていました。
先年展覧会も開催されたようです。
http://www.suirankai.jp/event/past/h18/0325/


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