2013/1/17

橋本雅也『殻のない種』  書籍

今日は、若い彫刻家の橋本雅也さんが来館して下さいました。
橋本さんは新井卓さんの友人で、先日のKENでのトークイベントに来て下さって、はじめてお会いしたのです。

《原爆の図》や本橋成一写真展「屠場」をじっくり見て下さった後、事務所で少し話をしました。
そこで、橋本さんの作品集『殻のない種』(主水書房、2012年)を拝見したのですが、鹿の角や骨を彫り込んでゲッカビジンやセイヨウバラ、ツキミソウなどの花を作り上げるという非常に繊細な仕事ぶりに感銘を受けました。

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橋本さんはずっと国外を中心に旅を続けていた方で、独学で彫刻をはじめたそうです。
作品集には、詩のような形式で、鹿の猟に同行したときの様子も記されています。

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凍てついた 大気が

月に てらされ

蒼く

風のない

静まり返った 世界で

二つの鼓動が あたたかく

一頭の鹿のなかで 鳴っている


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この詩からはじまる文章も非常に印象に残りました。
橋本さんの目の前で撃たれた雌鹿を解体していくと、腹部から胎児が取り出されたそうです。

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掌の中

柔らかく 朝露のような 小さな身体には

凍てついた冷気は あまりに痛々しく

微笑む 無垢な眠顔を 抱くこの手は

あまりにも 汚れている

微かに残る温もりが

そんな手のひらを伝って 心に届いた

空を覆う星の瞬く光が

無数の帯びとなって 地表まで届いていた


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「命」の終焉に直面した彼の視線は、本橋さんの「屠場」とも重なるように感じられます。

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沢に胎児の体を浸すと、体温はまたたく間に水に流されて
透きとおった体は虚ろに揺れた。

厳寒の冬山の冷気は容赦なく、僕をもう一つの現実へと引き戻した。
冷えきった体は震えが止まらない。
解体はまだ始まったばかりだった。
おかした行為を悔やみ、浅はかな自分をどれだけ責めても
解体を終え自分の足で前へ進む以外に、この夜を抜ける道は他にはなかった。
猟師は解体を続けている。
それが命を受け取ったものが担う役割だと、彼は無言で語っていた。


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そうした体験を経て生まれてきたのが、作品集におさめられた白い花々だったのです。
現在は神奈川県の無住寺で暮らしながら創作活動を続けているという橋本さん。
《原爆の図》は初めてご覧になったそうで、「原爆の悲劇だけではない、祈りのようなものを感じた」との感想も聞かせて下さいました。
近ごろは個展の機会も増えているとのことなので、そのうちに、ぜひ彫刻作品を直に拝見してみたいと思っています。
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