2010/12/4

【福井・金沢ツアー初日】東尋坊/金津創作の森/宇野重吉演劇祭  調査・旅行・出張

今年5月に亡くなった針生一郎館長のご長女のNさんに誘われ、Nさんご一家と友人の方々、美術関係学芸員、映像作家の皆さんとともに福井へ第1回宇野重吉演劇祭鑑賞・針生館長の足跡をたどるツアーへ参加しました。

行きの新幹線の座席はNさんが予約して下さって、東京駅からごいっしょする予定だったのですが、なんと「在来線の事故に巻き込まれ、地下鉄に乗り換えたが予定の新幹線に間に合わない」とのメールが届き、急きょ途中まで一人旅に。
しかも米原駅で北陸本線の特急「しらさぎ」に乗り換える際に、一度もお会いしたことのない名古屋の女性学芸員Sさんを見つけなければならないという、のっけからスリリングな展開に。
今年から携帯電話を持つようになって本当によかった!
Sさんは某美術誌で非常に読み応えのある針生館長の追悼文を書かれた方で、Sさんたちが取り組んでいるという日本美術オーラルヒストリー・アーカイブについてお話を伺っているうちに、あっという間に福井駅に到着しました。

   *   *   *

福井駅前でSさんと越前そばを食べ、結局約1時間遅れで到着したNさん御一行と無事に合流。ウルトラシリーズの怪獣デザインで知られる美術家の成田亨に迫るドキュメンタリ映画「日本の怪獣」を制作中という映像作家Tさんも合流しました。
駅前でレンタカーを借りて、まず一行が目ざしたのは、針生館長が丸木美術館のほかにもうひとつ館長を務められていた「金津創作の森」。

途中、三国の古い湊の町なみを通り抜け、世界有数の見事な柱状節理で知られる東尋坊に立ち寄りました。

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前日の嵐の影響もあって、この日の東尋坊は日本海の荒々しい波が激しいしぶきをあげ、たいへんな迫力でした。

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柱状節理とは、地上に噴出したマグマが冷え固まって柱状に規則正しく(多くの場合は六角形に)発達した現象です。
こうした不思議な地層を見ると、何だか胸が躍ります。
地層の奥から、太古の生きものたちの声が聞こえてくるようです。

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現在丸木美術館で開催中の「没後15年 丸木位里展」にも、位里が描いた《柱状節理》と題する水墨が2点展示されています。
描かれた場所は特定できませんが、東尋坊のような奇景が位里の心をとらえたのでしょう。

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金津創作の森」の話は、針生館長からたびたび伺っていたのですが、実際に訪れるのは今回が初めて。

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旧金津町(現あわら市)によって1998年にスタートした複合芸術施設(ミュージアム機能を備えた中心施設「アートコア」のほかに、入居作家の生活の場や工房も揃えている)「金津創作の森」は、約20ヘクタールという自然の里山を最大限に生かして作られています。

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まずは「アートコア」を訪れ、H事務局長にご挨拶。
企画展は、「Art Document 2010 共鳴する森」と題して、福井で長年前衛芸術運動を牽引してきた八田豊氏と、彼が長年交流してきた韓国人作家韓永燮氏をはじめ、国内外24名の現代美術作家による自然素材を主にした作品展示が行われていました。

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八田氏は1980年代の終わりに視力を失い、その後は和紙の原料である楮(こうぞ)を指先でよりほぐしながらキャンバスに貼り付けていくという表現を確立させた非常に興味深い作家です。
針生館長とも親しく交流されていた八田氏は、Nさんが来館するというので会場に来て下さいました。「長年視力を失っていると、指の先に目がついているようになる」と制作にまつわる話などをお聞きした後、急ぎ足で野外の広場などに展示された作品も観賞。
雨上がりの里山は瑞々しい輝きを帯びて、現代美術の作品とやわらかな調和を醸しだし、深く心に沁み入りました。

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里山の自然を生かすというコンセプトに加え、福井県内でも決して交通の便の良くない場所で質の高い芸術作品を紹介するという活動を続けていくことは、本当にたいへんなことだと思います。
針生館長、そしてスタッフの方々の努力を目の当たりにして、あらためて深い感動を覚えました。

   *   *   *

レンタカーを福井駅前で返した後は、軽い夕食をとり、福井県民ホールで開催される「宇野重吉演劇祭2010」へ。
宇野重吉(1914-1988)は福井県出身の俳優・演出家。劇団民藝を創設するなど長く演劇界を牽引し、新藤兼人監督の『原爆の子』や『第五福竜丸』など原爆を主題にした映画にも出演しています。
今回の公演は、第1回宇野重吉演劇賞受賞作品「アラル海鳥瞰図」(作=高野竜、演出=根本コースケ)。

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実は、演出家の根本コースケ氏は、Nさんのご長男。つまり針生館長のお孫さんなのです。
チラシに記された「演出家より」という文章を以下に紹介します。

「アラル海鳥瞰図」は、偶然にめぐりあった青年期をすごす若者たちが、
彼ら「普通の人」の目と感覚で、遠くの彼の地を見つめ、その中で、
自分の青年期をどう生きぬいていくかについて思いを巡らす物語です。
彼らの語りにより、彼らの世界により、抽象的でぼやけていた「世界」、
「アラル海」は、次第にはっきりと、遠くではあるが確かに存在するもの
として浮かび上がり、それぞれの人物との「つながり」になっていく。
そのつながりが、彼らの青年期を生き抜く確かな「力」となる。世界と
如何につながり、それを自身の力にしていける。これがこの作品の主題です。
その「つながり」が、7人の役者の世界に立ち向かう姿を通して、見ている
お客さんにも確かに感じられるような、そんな作品にしたいと思います。
福井でも、いや、日本でもめったに見ることのできない作品になると思います。
どうぞ劇場まで足をお運び下さい。


中央アジア、ウズベキスタン西部にある世界第4の湖「アラル海」は、ソビエト連邦の時代から続く農業用水の汲みあげ過ぎによって枯渇しようとしているそうです。
そして湖周辺には、スターリンの「民族シャッフル」政策により極東から集団移住した朝鮮族の末裔が今でも多数住んでいるとのこと。
演劇は、その「アラル海」をキーワードにして、現代を生きる7人の日本の若者たちの独白が、決して直接交わることなく、しかしどこかに「つながり」を感じさせながら、最後まで複雑に交錯していくという内容でした。
作者は埼玉県在住とのことで、物語のなかでは、高句麗の滅亡によって亡命した朝鮮人が(丸木美術館に近い)埼玉県の飯能市に集団移住したという話も登場していました。

留学でも移住でもいいんですけど、僕なんかね、どんどん人は動いた方がいいって思うんですよ。行って、見て、帰ってくる。あるいは帰ってこない。動いたことが悲劇だと思ってたら、ずっとなんていうか恨みを晴らすために生きてるみたいな感じになるじぁないですか……」という台詞が、非常に印象的でした。
先日、千葉県佐倉市にある国立歴史民族博物館を訪れた際、20世紀は戦争の世紀であり、人類史上例にないほど大規模に人間の移動が行われた時代であった、という展示を見て、そのことがずっと心に残っていたのです。

国家によって強制的に馴染みの土地からひきはがされる人びと。
土地に縛られることなく、自らの意思で“ここではないどこか”を目指す人びと。
生きるために、生まれた土地を離れなければならない人びと。
事情や思いはそれぞれ違っても、現代は生まれた土地で生涯をまっとうする人の方が少ないような時代です。
人は動けば、自らとは異なる背景世界を背負った人と出会い、刺激を受けることでしょう。
世界を見つめる視線が大きく変わるかもしれません。
その経験が、人びとに何をもたらすのか。
そうした時代の世界観は、これまでとどのように変わってくるのか。
演劇をみながら、さまざまなことを考えさせられました。

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写真は公演のあと、ロビーで語らう関係者と観客たちの様子。
出演者の若々しい熱演もあって、非常に好感度の高い舞台になっていたように思います。

劇場を出た後は、Nさん一行とともに駅前の居酒屋へ行き、夜が更けるまで語り合いました。
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