団塊のあなたへ /5
玉置俊久さん /和歌山
◇日高を近畿のオアシスに 一度の人生、リスク恐れず−−玉置俊久さん(56)=日高川
29年間のサラリーマン生活と早期退職でお別れし、02年に故郷に妻とUターンした日高川町玄子の農業、玉置俊久さん(56)。会社勤めで得た経験や人脈などを生かし、地域のリーダーとして住民らとともに観光、産業、文化を生かしたまちおこしに取り組んでいる。「日高を近畿のオアシスに」が目標だ。
旧川辺町でミカン農家の長男として育った。長崎大学に入り、卒業後は大手家電メーカーに就職。長く故郷を離れた。4年前、農業を続けていた父が死去。当時、3人の子どもたちは既に独立し、会社もリストラで早期退職者を募っていた。
「このままだと、同僚たちと同じレールを走るだけ。今、自立したら仲間より一歩先に立ち、いずれは団塊世代の仲間の受け皿になれるかもしれない」。思い切ってUターン、農業を継ぐことを決心した。
安定した生活を捨て、一から農業を始めることにまったく不安はなかったのか。「たった一度の人生。まだまだ若い。いろんなことにチャレンジしてみよう。リスクを恐れてはいけない」。自分に何度も言い聞かせたという。
「走りながら考えるネアカ人間」と自称する。旧友たちとの約35年間の空白もすぐに埋まった。ただ、気になったのは故郷にいま一つ元気がないこと。
ミカン栽培をはじめ、農林業が盛ん。歌舞伎の安珍・清姫伝説の舞台として知られる道成寺という観光資源もある。「道成寺を知らない人はほとんどいない。全国的な知名度がある地元の財産を生かさないのはもったいない」
玉置さんは04年4月、旧川辺町に観光協会を立ち上げ、民間主導で道成寺での人間国宝による歌舞伎や文楽公演などを次々に開催。全国から大勢の観客が訪れ、大成功を収めた。
さらに、06年8月には地元特産のホロホロ鳥と備長炭を使い、世界一長い焼き鳥に挑戦。見事に成功し、日高川町の名を全国に広めるなど、地域おこしに貢献した。県が06年に初創設した「わかやま地域おこし大賞」(個人)も受賞した。
「地元の仲間の力があったからこそここまでできた。私よりもっと輝ける人たちがたくさんいますよ。私はよそもん、若もん、かわりもんとして皆の思いを代弁しただけ。これからもすばらしい仲間と、元気な和歌山にしていきたい」。走りながら考える「まちおこし」は、まだまだ止まりそうにない。【山中尚登】
毎日新聞 2007年1月6日

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