とちの記 刑務所内のラジオ番組
07年10月に開所したさくら市の刑務所「喜連川社会復帰促進センター」内だけで流れるラジオ番組がある。名前は「きつれがわ ほっとベリータイム」。「レディオ ベリー」の愛称で知られるエフエム栃木(本社・宇都宮市)の制作だ。
番組は約60分。同社のアナウンサーが受刑者のリクエスト約10曲とメッセージを紹介し、CDに収録。年4回の予定で、これまでに4月と6月の2回、放送された。実際の放送さながらの仕上がりだ。
A4サイズ半分ほどの小さなリクエスト用紙は同センターだけのものだ。受刑者は名前のイニシャル、働いている工場、リクエスト曲とその理由を記す。手書きの文字にその思いがにじむ。
4月のテーマは「春」だった。ある男性は、娘の中学校の卒業式の日に娘と一緒にカラオケ店に行った時、娘が歌ったドリームズ・カム・トゥルーの「未来予想図2」をリクエストした。
カラオケ店で、娘は「高校を卒業する時も一緒に行って歌おうね」と約束した。でも、男性が収監されていた今春、娘は高校を卒業。「娘の歌をもう一度聴くことができなかった」。男性は後悔の念をつづった。
現在の収監者は20〜80代の約1500人で、リクエストの歌手はコブクロ、青山テルマ、さだまさし、井上陽水など十人十色だ。中には、社内にCDがない演歌があり、慌てて用意したものもあったという。
同センターは「リクエスト曲を聴いて思い出に触れることや、メッセージを聞いて自分と似た経験を持つ他者に共感することで社会復帰への教育効果がある」とする。
受刑者の一人は番組の感想にこう寄せた。「いろいろな人がこの施設にいることを知った。一生懸命反省し、早く出所して世のために頑張りたい」。丁寧な文字で更生を誓っていた。(京谷奈帆子)
受刑者が記入するリクエスト用紙
朝日新聞> マイタウン> 栃木> 2008年07月22日

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