A 「そろそろ夏休みが始まるねぇ〜。」
B 「でも、私働いてるから何もわからないんだよねぇ。けどなんかちょっと気分転換したいなぁ。」
A 「私は学生だから、休みだけど逆にね〜、超退屈なんだよね。暑いから部屋の外でたくないしなぁ。でもなんか、こうたまにはいつもと違う感じ味わいたいなぁ〜。」
AB 「は〜ぁ。夏が来るわぁ〜」
そんな仕事の合間、もしくは夏休みの退屈なひと時、ちょっとした時間に読んでみることをお勧めしたい本を見つけました。
今日ご紹介するのは、巌谷國士の「シュールレアリスムとは何か」(ちくま学芸文庫 1200円)という本です。
巌谷はシュールレアリスムに関する本(ブルトンなどを中心にして)を多く翻訳している人で、本人もシュールレアリスムに関する本をいくつか出しています。
瀧口、澁澤、という日本シュールレアリスムの二大巨頭よりちょっとあとの世代だと思いますが、彼もまたミスター・シュールレアリスムと言っていい人物でしょう。
しかしここでちょっと注意しておかなければならないのがこの本、美術史的もしくは思想的に画期的もしくは革新的な本だ、というものではありません。
これはあくまで先述したとおり暇つぶしの方にお勧めしますよ。
このほんでは巌谷の分析と考察がぽんぽんと述べられていくのですが、論理的で非常に明快でもある。また、彼の世界観や人柄が結構いいんです。なんというか、シュールレアリスムらへんって濃厚なイメージがあるじゃないですか、そういうものをさらさらっていう感じに紹介しちゃう。だらか逆に読者も意外と共感できるんです。
この本は基本的にシュールレアリスムという発想が、どのような思想や歴史を含んでいるかというものが話の中心になっていて、必ずしもシュールレアリスムの運動に対する具体的な分析と言うわけではありません。ですから、シュールレアリスムの話は第一章でおわり、その後はそれに関連して西洋の前近代の文学などを照らし合わせながら考察したりしている内容になっています。
またこの本は、渋谷にあるクリエイティブ・ライティング・スクールと言うところで行われた、三回の講義をまとめたものなので非常に読みやすい本です。
第一部では、シュールレアリスムとは何か
第二部ではメルヘンとは何か
第三部ではユートピアとは何か
という構成になっています。
第一部では、シュールレアリスムという概念が日本では誤解されているというところから、超現実とはどのようなことなのかについて説明していきます。
シュールレアリスムとは幻想絵画とかシュールとかいわれるようなものではなくて、強度を持った現実であり、あくまでこの現実の中に、現実と外れる何かを見出すのであって、ワンダーランドに行ってしまうものではないと言うわけです。
つまりそう考えるとシュールレアリスムが、アジェを評価するのが非常によくわかると思います。それはA→Bではなく、A→A'なのだといいます。
「シュールレアリスム」を「シュールな世界だね」と言ってしまうよりは、女子高生が言う「チョーかわいい」的な意味で、「超現実」ととらえてくれた方が近いらしいんです。このようなちょっとした親父ギャグもどきが本編にはちりばめられています。
またシュールレアリスムの技法として「自動記述」(瀧口)と「デペイズマン」(澁澤)という二つの構造があるなどの説明は非常にわかりやすく面白いですよ。
また第二部では、ワンダーランドとシュールレアリスムの関係を考えるためにも、御伽噺、メルヘンみたいなものを考えていきます。これが意外と面白くて、「へぇ〜」を連発!
第三部は西洋におけるユートピアとは、東洋の桃源郷とは全く異なり、それはどのようなことかについて、サドなどいくつかの小説家を挙げてわかりやすく説明してくれます。語りが明快であるから、ひじょ〜うに説得力があるんですね。ユートピアとはどのようにイメージされてきたのかということを分析したりしています。
1200円でちょっと高いわりに、あっという間に読めてしまうと思われるかもしれませんが、そこにちょっとした贅沢さを感じると言うのもいいのではないですかぁ。
もしくはこれを読んで「トリビアの泉」に投稿するネタを探してみてはどうでしょう。そうすればキャッシュバックがついてきます。
海に、山に、ご自宅で、もしくはオフィスで「シュールレアリスムとは何か」本体価格1200円。夏のアンニュイなひと時にいかがでしょう。
PS なお、この作品がたとえ面白くなくでも、こちらでは責任は一切負いません。