2006/2/22

赤松俊子 南洋ノートよりB  作品・資料

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▲南洋ノートの寄せ書き

暮れ落ちたたまなの葉越にギラギラと金属性の光を持つ月が高く上つてゐた。裸になつて、タンクの水を浴びに行く。
『水浴びてゐるよ、のぞいてはいけないよ』
月の林の中の弱いランプの光に向つてさけぶ。なま暖かい天水に石鹸がうまくとけて、体中泡ぶくになる。立ち上つて水を肩から浴びる。天水がやわらかい感触で体を流れ、陽やけした手足を除いて青白い程の胴体が月光に輝き、乳房の影が青黒く腹部にうつる。
林から用あり気に出て来た島民がヘタヘタと足音を地に吸はせて、側を通り過ぎるが、さつき叫んだのがきこえてゐるのかふり向いて見やうともしない。

月夜の熱帯の山に、青黒い風が海から吹いて来て、嶺のタコの木を吹きさらす。
ニヨキニヨキと方向をまちがえてのびた枝を急角度にもとへもどそうとして、その中途から風に吹きさらされ、もうどうにでもなれと風にまかせてのびほうけたのか、奇妙なタコの樹がはげ上つた枝の頂きにわずかの葉をのせて、月夜に何かを物語つてゐた。
青黒い風が海から吹いて来て、やせた山嶺の椰子の木を吹きさらす。だらりと両手を下げた椰子の葉、葉脈にギラギラと月光がきらめいて、冷たい静かな物語りを、青黒い風にのせてゐた。
青黒い風が海から吹いて来て、山嶺のわずかに立つ樹々に何かを問ひかける。ヒヨウヒヨウと熱帯の地に、何か解けない冷たいなぞが、青黒い風にのつてかけぬけてゐた。
(続く)
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