2015/4/3

初めてアメリカに渡った原爆の絵  作品・資料

“海渡る悲願の原爆図”……と言っても、丸木夫妻の《原爆の図》の話ではありません。
初めて米国に渡った原爆の絵を調べていて、1950年8月6日付『中国新聞』の興味深い記事に出会いました。
絵の作者は新延(にいのべ)輝雄。第4回日展出品作《たそがれ》が、1950年の時点で渡米していたというのです。

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記事には作品写真も掲載。焼け跡で被爆した家族の姿を中心に、その右後方に被爆者の群像、左奥には産業奨励館(原爆ドーム)も描かれています。

広島平和記念資料館啓発課のDさんに調べて頂いたところ、新延の生家は広島の繁華街にあり、本人は郊外に疎開していたものの、両親を原爆でなくしているとのこと。《たそがれ》は1948年の日展初入選作で、このほかに2点ほど原爆の絵を描いていたものの、どちらも画家本人によって廃棄されたそうです。

その後新延は広島画壇の指導的立場で活躍し、1994年に描いた《原爆忌はるかに》と題する鎮魂の祈りを込めた油彩画は、広島平和記念資料館の地下に常設展示されています。
ただし、原爆を描いた絵画としては1948年の《たそがれ》の切実な表現が圧倒的に優っているように思います。

以下は記事の書き起こし。

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海渡る悲願の原爆図 米国で特別陳列 シュ博士が持帰る

 毎年家を建てにきて下さる‟アメリカの博士さん”として広島市民の敬愛を集めたフロイド・シュモー博士は、今年度計画の家八戸も立派に完成したので六日午後零時三十五分広島駅発「ひばり」で帰米の途につくが、その旅装のなかには知己からの贈物と一緒に広島の一青年画家から借りうけた原爆の絵が大切に包まれてあった

 ふとしたことから知りあったシュモー博士と広島市庚午北町二丁目に住む洋画家新延輝雄氏(二八)東京美術学校出身=は博士の広島滞在中その宿舎、同じく庚午北町のABCC勤務リアン・ウォーターズ氏宅で数度会っていたが、一夜博士が新延氏の画室を訪れるにおよんで、言葉は通じにくくても芸術を通じての二人の心は堅く結ばれ、とくに新延氏の第四回日展出品作で、八月六日の惨劇を描いた「たそがれ」は博士の心へ深い感銘を与え、博士はその絵を一年間借りうけてアメリカに持帰り、展覧会に特別陳列してひろくアメリカ市民にみせたいと申入れ、新延氏もこれを快諾、ここに広島の画家の描いた原爆の絵ははじめて海を渡ってアメリカで公開されることになった。

 シュモー博士談 私はあの絵の芸術的価値については専門家ではないのでなんともいえない、しかし新延さんの絵は平和を愛し、広島へのつぐないをしたいと願っているアメリカ市民の心を一層強く動かすことだろう、アメリカの美術館の規則はくわしいことは知らないが、平和関係の展覧会を皮切りに各種の展覧会、美術館に特陳して一人でも多くの市民にみてもらうよう努力する、また私は帰米したらすぐ日本の婦人の印象記「ジャパニーズ・ウーメン」の著作にとりかかるが、そのなかに十枚くらい新延さんのスケッチを入れさせてもらうよう約束した

 新延氏談 あの絵は原爆ですべてを失った広島人、いや私自身の生き残ることの苦悩の姿を現そうとしたものです、あの絵が平和運動の一助ともなれば幸せです

 なおシュモー博士は明年は来られないが明後年の夏三たび家を建てに広島に来ることになっている=写真は新延氏作品「たそがれ」


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丸木夫妻の《原爆の図》も、1951年はじめにアメリカへ持っていって展示をしないかという誘いがあったそうですが、結局、渡航直前に断り、1970年に全米8会場の巡回展が行われるまで機会を待つことになりました。

それより前に新延の作品が、しかも、「広島の家」で知られるシュモー博士の手によって渡米していたというのは驚きです。
また、米軍占領下の時代に日展で原爆の絵が展示されていたことも、初めて知りました。
《原爆の図》より前に、被爆者の姿を生々しく描いた絵画が発表されていたのですね。
当時の日展の資料にも新延の《たそがれ》の図版は収録されていないので、今のところ、この新聞記事が唯一の図版資料になるわけですが、非常に興味深い作品です。

もっとも、アメリカに渡った《たそがれ》がどのように展示されたのかも、その後の作品の行方も、まったくわかりません。
《原爆の図》も、1951年の時点でアメリカに渡っていれば、そのまま行方不明になっていたのかもしれません。
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