2014/12/21

【福岡出張】第46回原爆文学研究会  調査・旅行・出張

原爆文学研究会に参加するため、朝一番の飛行機で福岡へ。

午前中は少し時間が空いたので、福岡アジア美術館へ。

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残念ながら第5回福岡アジア美術トリエンナーレは先月末に終わっていましたが、コレクション展「LOVE/愛―女神のささやき」と「声なきVoice(こえ) 」などの展示を見た後、ミュージアムショップで黒田雷児学芸員の『終わりなき近代 アジア美術を歩く 2009-2014』(grambooks、2014年)を購入。

「近代の精神」を、現代の美術史の主流となっている「様式的・技術的な革新」に限定するのではなく、封建主義・独裁制・植民地主義・家父長制などからの解放、平等への希求―つまり「民衆的な抵抗」としてとらえ、アジアにおける(従来のものでない)「近代」美術を求めてまわる黒田さんの姿勢には、とても大きな示唆を受けました。

   *   *   *

12時からは、九州大学西新プラザで開かれた第46回原爆文学研究会へ。
まずは、刊行されたばかりの『原爆文学研究13』を受け取りました。過去最多頁数という充実の一冊。いずれあらためて紹介いします。

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研究会の前半は詩の実作者である新井高子さんと高野吾朗さんによるワークショップ。
新井さんが紹介されたトルコの詩人ナーズム・ヒクメットについては、日本でも有名な作品「死んだ女の子」を知っていましたが、あらためて原語に忠実な翻訳を聞くと、その乾いた言葉の質感に驚かされます。

さらに、新井さんが「今日はこの詩を紹介したかった」とおっしゃていた「希望」という1958年に書かれた詩の強度に、感銘を受けました。

稼働する、原子炉が稼働する
人工衛星が通り過ぎる、日が昇るころ
そして日が昇るころ、ゴミ収集車が
死体を集める、歩道から、
失業者の死体を、餓死者の死体を。

稼働する、原子炉が稼働する
人工衛星が通り過ぎる、日が昇るころ
そして日が昇るころ、農民一家が
男と女とロバと鋤
鋤を引くのはロバと女
畑を耕す、畑は一握り

稼働する、原子炉が稼働する
人工衛星が通り過ぎる、日が昇るころ
そして日が昇るころ、一人の子どもが命を落とす
一人の日本人の子、広島で、
年は一二歳、番号が振られている
百日咳でもなく、髄膜炎でもなく
命を落とす、一九五八年に
命を落とす、小さな日本人が広島で
一九四五年に広島で生まれたという理由で


(冒頭部分のみ抜粋、訳イナン・オネル)

「稼働する、原子炉が稼働する/人工衛星が通り過ぎる、日が昇るころ/そして日が昇るころ」というリフレインと、現実世界の多様な日常をモンタージュする透徹したリアリズムの眼差しに凄みを感じます。

高野さんは、アドルノの言葉「アウシュヴィッツの後に詩を書くことは野蛮である」を引用しつつ、しかし、その言葉を乗り越えるように、3.11後の福島において、「いかに自分が野蛮であるかを吐露する」と語気を強めました。
お二人の詩人による詩の朗読は、文字で読むことと言葉を受け止めることの身体性の違いの大きさに思いをめぐらせる、とても刺激的なものでした。

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後半のテーマは「カタストロフィと詩」。
福島大学の高橋由貴さんは「死者の目の中を通れ」という原民喜の方法論の、記録・体験とモダニズム詩の両面性を、詩と散文の往還という視点から精緻な読解を行いました。

ベンヤミン研究者の柿木伸之さんは、先に高野さんが引用したアドルノの問いの真意を問い返しながら、パウル・ツェランと原民喜の詩を読み解いていきます。
柿木さんの丹念な読み込みに圧倒されながら、最後に配布されたプリントのなかの次の一節を読み、今回参加した甲斐があったと思いました。

 残余からの歴史とは、それによって構成される、それぞれの特異な記憶が相互に照らし合う記憶の星座である。その閃きは、忘却と野蛮が続く現在を鋭く照射しながら、神話としての歴史の連続に抗う。そして、この抵抗とともに、死者とともに生きる場が、この星座のうちに指し示されるのだ。

そして、最後の中原中也記念館長・中原豊さんの発表「3.11に向き合った詩人たち」は、和合亮一、須藤洋平、三角みづ紀を取り上げ、ワークショップの方向性を、3.11後の現在地へと一気に引きつけました。

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研究会は休憩をはさんで5時間、さらにその後の恒例の中華料理店での打ち上げ会でも、熱い議論は続きます。
こうした濃密かつ視野の広い研究会を10年以上にわたって続けてこられたということに、今さらながら感銘を受けた一日でした。
仕事の都合もあって、なかなか毎回参加というわけにはいきませんが、これからも参加し、幅広い表現から刺激を受けていきたいと思います。
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