2011/12/15

『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』  書籍

現在開催中の「Chim↑Pom展」を観る際に、ぜひお読み頂きたいのが『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』(発行:無人島プロダクション、発売:河出書房新社、2009年)です。

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この書籍は、Chim↑Pomが広島のピカッ騒動を起こした際に発行されたもので、丸木美術館の針生一郎元館長の寄稿なども掲載されています。
とりわけ興味を惹かれるのは、ピカッ騒動の一報を受けたとき、丁度丸木美術館で《原爆の図》を観ていたという美術評論家の福住廉さんの文章(pp.146-155)。
Chim↑Pomの「ピカッ」作品を、丸木夫妻の《原爆の図》と比較しながらいち早く論じていて、今回の「Chim↑Pom展」を観る際に、非常に多くの示唆を受ける内容です。

福住さんは、両者の作品について、次のように比較します。

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かたや反核平和運動の象徴的作品であり、かたや新進気鋭のアーティストによるあまりにも無邪気なゲリラ・パフォーマンス。たしかに、双方を同列に並べて論じることには無理があるのかもしれません。なにより決定的に異なるのが、表現形式です。丸木位里・丸木俊が「平面」という二次元の支持体に「絵画」を描写したのだとすれば、Chim↑Pomは「大空」という広大な三次元の空間に「落書き」を描きつけたのでした。「絵画」が高尚で永遠の価値を志向するのにたいし、「落書き」はいずれ消し去られてしまう宿命を抱えています。

(中略)

「原爆の図」は全国各地をゆっくりと時間をかけて巡回していくことで、ついに国民的な被爆体験を形成することに貢献したといわれていますが、「ピカッ」はセンセーショナルなイメージだけが先行してしまい、どうやら瞬間的に消費されてしまったようです。公平で有益な議論のためには絶対欠かすことのできない「作品」にいたらなかったという点でも、「ピカッ」は「原爆の図」にとても及びません。

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その上で、両者に共通点がないわけではないとして、二つの理由をあげています。
第一に、「両者はともに被爆者ではないということ」。
第二に、「双方がともに原爆という主題に意欲的にアプローチしている点」。

詳しくは実際の文章をお読み頂くとして、福住さんは現代美術の抱える問題点として、次の点を指摘します。

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「原爆の図」が反核平和運動のうねりのなかで画風を徐々に変化させながら大衆に受容されていく一方で、その大衆性や叙情性を批判的に乗り越える芸術作品が登場したとはいえません。現代美術はわたしたちの文字どおり同時代の表現であるはずですが、その大半は物質やら視覚やらマチエールやらの些事に拘泥するばかりで、原爆や戦争、あるいは天皇制といった、わたしたちの「生」を根底で規定している政治的社会的テーマを、いまも昔も敬遠しているからです。「原爆の図」のほかに、とくに目ぼしい「原爆美術」の成果を残していないという意味で、日本の戦後美術はとてつもなく貧しいのです。

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そして、原発や「核の傘下」にもとづいている、いわば原爆を内面化している現代の社会をいかに視覚化することができるのか――それが事実の描写と平和への祈りによって成り立つ「原爆の図」には見出すことのできない今日的な課題ではないかというのです。

さらに、小沢節子さんの評論「『原爆の図』―描かれた〈記憶〉、語られた〈絵画〉」(2002年、岩波書店)で指摘されている、“「原爆」という誰も語りつくすことのできない出来事を、「誰にでも分かる」ように、そしてできるだけ多くの人びとに伝える”という困難な到達点を目ざしたという点では、丸木夫妻とChim↑Pomは同じである、と述べています。

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多くの現代美術がその表象不可能性を前にしてたじろぎ、だれにでも分かると同時にできるだけ多くの人びとに伝えるという条件をクリアできなかったことを考えれば、そうしたアートの歴史的経緯を尻目に、一気に原爆との距離を縮める鮮やかさは、Chim↑Pomならではの魅力だといえます。表象不可能性という限界点で長らく自転を繰り返してきた「原爆美術」に、Chim↑Pomはこれまでとまったく別の方向性を指し示したのではないでしょうか。

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という福住さんの結論には、そのまま、今回丸木美術館で開催された「Chim↑Pom展」の意味が凝縮されているような気がして、その先見の明に頭が下がります。

2011年の視点から付け加えるならば、丸木夫妻もChim↑Pomも、最初の原爆作品の発表によって物議を醸しながら、反響を受けとめ、人びととの対話を続けて、社会に向けてさらなる発表を続けていったという点も、共通しています。
そして原爆の先に、原発につきあたったという点も。

常設展示では丸木夫妻の《原爆の図》14部作を展示しているので、同時代の事件として原爆を「体験」した丸木夫妻と、原発事故を「体験」したChim↑Pomの、目まいのするような表現の落差のなかにひっそりとつながる問題意識に、目を凝らして頂きたいと思います。
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