2010/8/22

栃木県立美術館「イノセンス」展講演会  館外展・関連企画

栃木県立美術館で開催中の「イノセンス―いのちに向き合うアート」展(9月20日まで)に行ってきました。

「正規の美術教育を受けたわけでもないのに、ただ自分の内なる衝動に従って、まったく独創的な造形芸術を生み出す人たち」(障がいのある方や、独学の画家たち)の独特の魅力ある作品とともに、障がいを抱える人のアートに興味を持って関わりを続ける芸術家や、いのちに向き合う表現を志向する芸術家の作品を区別することなく展示し、芸術の本質や役割を問い直すという刺激的な内容の展覧会です。

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会場の一角には、丸木スマ、大道あやの作品コーナーも設置されています。
スマの代表作《簪(かんざし)》(1955年)とあやの代表作《しかけ花火》(1970年)が、そろって展示された様子は圧巻のひとこと。
また、今回は、ともに広島で原爆を体験した二人の〈原爆絵画〉が紹介されたことも大きな特徴としてあげられます。
スマは彩色作品の《ピカのとき》と三滝橋周辺の様子を描いたと思われるデッサン2点、あやは2000年にNHKの企画で原爆体験を描いた『ヒロシマに原爆がおとされたとき』の原画9点が出品されています。

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午後1時半からは、「命の花咲く地獄―丸木スマと大道あやの絵画世界」と題して、近現代史研究者の小沢節子さんが講演を行いました。
その内容は、「画家として原爆の絵を描くことから出発したスマ」と「原爆の記憶を抑圧し、最後に描こうとしたあや」の歩みを対比しながら、近年、生命のよろこびを描いた“素人画家”として再評価されつつある二人の画家の、一見無垢に見える絵画の底流に、原爆という“地獄”を目の当たりにした体験が存在しているのではないかという視点を深めていくものでした。
とりわけ、家の没落、原爆体験、殺害と傍目からは苦難の連続とも思える人生を送ったスマが、苦難を糧にしてそれをくつがえすような自然と人間が調和して生きる世界を描き出したという指摘には、「豊かな表現とは何か」という根源的な問題をあらためて考えさせられました。

小沢さんの後には、出品作家の一人で、阪神大震災をきっかけに人間の精神的な傷を主題に社会性の強い作品制作に取り組んできたという井上廣子さんの講演も行われました。
阪神大震災後の仮設住宅での孤独死、精神病院の窓の内・外側、ドイツの強制収容所、世界各地で出会った高校生の目を閉じた半身像……まさに「いのちと向き合う」制作活動を続けてきた井上さんの言葉には、表現そのものはまったく異なるにもかかわらず、どこか丸木夫妻やスマ・あやの世界観に通じていくような印象を受けました。
今後も継続して注目していきたい作家さんの一人です。

講演会の後は、担当学芸員のKさんをはじめ、小沢さんや井上さん、イメージ&ジェンダー研究会の方々といっしょに美術館近くのイタリアン・レストランで夕食を取り、楽しく刺激的な対話の時間を過ごしました。
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