2012/7/29

下関散策と「丸木俊絵本原画展」講演  講演・発表

海風の涼しく感じられる下関の朝。
ホテルの前には1915年に建てられた、立派な旧秋田商会ビルがあります。

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そのビルの前を基点に、下関ゆかりの童謡詩人金子みすゞの詩碑をめぐるコースがあるというので、朝の散歩を兼ねて詩碑巡りをすることにしました。

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彼女の終焉の地にほど近い寿公園にある顕彰碑(写真上)をはじめ、詩碑は全部で10カ所。

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そのひとつに、港を見下ろす山上の“関の八幡”と呼ばれる亀山八幡宮の詩碑があります。
詩碑には、みすゞの作品「夏越まつり」が刻まれています。

ぽつかりと
ふうせん、
瓦斯の灯が映るよ。

影燈籠の
人どほり、
氷屋の聲が泌みるよ。

しらじらと
天の川、
夏越祭の夜更けよ。

辻を曲れば
ふうせん、
星ぞらに暗いよ。


詩を主題にした絵のレリーフも設置されているのですが、作者の名は、熊谷まちこさん。
見覚えのある名前です。今年の春に、銀の鈴社から刊行された児童向けの丸木夫妻の評伝『平和をねがう「原爆の図」』の絵を担当されている方なのです。

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調べてみると、熊谷まちこ(くまがいまちこ)さんは、下関のご出身。
現在は埼玉県にお住まいで、丸木美術館にもおいで下さったことがあるのですが、ここで熊谷さんのお仕事に巡り合うとは思ってもいませんでした。
しかも、今日はその「夏越(なこし)祭り」の当日なのです。
境内は、祭りの準備でとても忙しそうでした。

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八幡宮の階段を下りて海へ向かうと、新鮮な海産物が取引される「唐戸市場」があります。
ところせましとならんだ露天の店先には、旬のアワビやササエがひしめきあっています。

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ここでは、店先で寿司も握って食べさせてくれるので、観光客は皿と箸を持って露天のあいだの狭い通路を歩きまわっています。
私も、鯛や海老などの寿司をつまんで、お土産にまだ動いているサザエを買いました。

   *   *   *

講演を行うために下関市立美術館へ向かう途中、源平壇ノ浦の海戦で敗北し、入水した安徳天皇を祀る赤間神宮に立ち寄りました。
「海のなかにも都はございます」との二位の尼の言葉を再現したような、鮮やかな朱色の竜宮城のような水天門が目につきます。

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赤間神宮を訪れたのは、ここに小泉八雲の『怪談』で知られる耳なし芳一を祀った芳一堂があるからです。
明治時代に神仏分離が行われるまで、この赤間神宮は阿弥陀寺という名の寺でした。
耳なし芳一がつとめていたのは、その阿弥陀寺であったといわれています。

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今日の講演は、丸木俊の絵本の仕事についての紹介で、そのなかで『日本の伝説』(1970年、講談社)に収録されている「耳なし芳一」の挿絵も紹介するので、事前に挨拶をしておきました。

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芳一堂のとなりには、七盛塚と呼ばれる平家一門の墓群があります。

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芳一が亡霊に誘われて夜な夜な琵琶を弾いたという墓は、ここだったのでしょうか。

   *   *   *

そしていよいよ下関市立美術館へ。
長府毛利藩の城下町の入口に立つこの美術館では、26日から「生誕100年 丸木俊・絵本原画展〜いのちへのまなざし〜」を開催中です。

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会場には、俊の手がけた多数の絵本原画をはじめ、数点の油彩画、絵本の実物、そして原爆の図第11部《母子像》やスマの絵画も紹介されています。なかなか見応えのある内容です。

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展覧会を担当して下さった副館長のNさんは、丸木夫妻と下関は地縁もなく、あまり知られているわけではないので、果たしてどれだけの方が講演会に来るかと心配して下さっていたのですが、熱心のファンと思われる方を中心に、会場には多くの方が訪れてくださいました。

「大地に根ざした物語を描く―丸木俊と絵本」と題して行った講演は、@故郷の北海道、南洋、ロシアの体験を描く、A戦争と公害を描いた記録絵本、B大地に根ざした物語を描く、という3つのテーマから、「原爆の画家」や「絵本の画家」というふうにどちらかだけを見るのではなく、両方とも深くつながっていると考えてはじめて丸木俊という画家の仕事を知ることができるという内容をお話しました。

講演の報告は、今日はこれでおしまい。

   *   *   *

そのあとは、H館長に案内されて、長府の城下町を車で見てまわることになりました。
これまでにも、地元の方に案内されて街を見て歩く機会は何度かあったのですが、いつも基本的には「おまかせ」でお願いすることにしています。
というのは、自分で観たい場所は時間のあるときに自分で見に行けばいいので、地元の方が何を「見せたい」かを知る方が、はるかに興味深いのです。

というわけで、最初に連れて行って頂いたのは、幕末に高杉晋作が挙兵した地として知られる功山寺。といってもH館長が「見せたい」のは高杉晋作挙兵の像ではなく、鎌倉時代の唐様建築の美しい、日本最古の禅寺様式を残した国宝の仏殿でした。

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何でも、前回の大修理の際に、柱に残された墨書から、鎌倉の円覚寺よりも建立年が古いことが判明したのだそうです。

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また、功山寺の境内にある下関市立長府博物館も、1933年に長府尊攘堂として建てられたそうですが、戦前の博物館建築の典型として国の登録文化財になっている興味深い建物です。

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冷房がなく、館内は決して広くはないのですが、下関を知る興味深い歴史的資料がならんでいて、思いのほか長い時間をかけて展示物を見てしまいました。
江戸時代には朝鮮や琉球の使節団も下関に上陸していて、まさに本州の玄関口として、海外に開かれた街であったことが感じられます。

   *   *   *

続いて訪れたのは、城下町らしい雰囲気の練塀が残る古江小路。
長府藩の藩医を代々務めた菅家の長屋門は、当時の面影をそのまま残しているそうです。

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H館長のお気に入りだという横枕小路も訪れました。
狭い路地の両側が練塀になっていて、歩いていると江戸時代にさかのぼっていくような不思議な感覚に陥ります。

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その横枕小路の突き当たりにあるのが、忌宮(いみのみや)神社。
仲哀天皇・神功皇后が西国平定の際にここに豊浦宮を建てて滞在したという伝説の地です。

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ちょうど、8月7日からはじまる奇祭「数方庭」の準備で、鳥居の奥には十数メートルもある長い竹の幟が天に向かってひしめいていました。
「数方庭」は、境内にある鬼石と呼ばれる石のまわりを、竹の幟を一人で抱えてまわるという勇壮な祭りで、やはり仲哀天皇による熊襲平定を起源にするようです。

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それにしても、長くて重い幟を一人で抱えるのは、相当な力とバランス感覚が必要です。
祭りならではの“男を見せる”という心意気のあらわれのひとつなのでしょうか。
幟を見上げているだけで、凄い迫力に圧倒されます。

   *   *   *

最後に、関門海峡を見下ろす火の山の頂上にある展望台に案内して頂きました。

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関門橋の手前が下関、向こう側が門司です。
その奥には、宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘の地である巌流島も見えます。
海峡を眺めながら、H館長と「下関には歴史が重層的に詰まっている」という話をしました。
神話時代の西国平定からはじまり、源平の海戦、宮本武蔵、馬関戦争などの幕末維新、さらに日清講和条約締結と、この小さな町はたびたび歴史の表舞台に顔を出します。しかし、かえってそのためにPRのポイントが絞りづらく、中途半端になっているとH館長はおっしゃっていました。
けれども、個人的には見どころのたっぷり詰まったとても面白い町だと思います。
何より、この狭い海峡に激しく流れこむ急潮、さまざまな船が行き交う風景は、それを見ているだけで本当に胸が高鳴ります。

金子みすゞにしろ、画家の香月泰男にしろ、あるいはこの地で生まれた作家の林芙美子の家族にしろ、このあたりに生まれた人は、まずは出発の地である下関を目ざす、というH館長の話も印象に残りました。
お世話になったH館長はじめ、下関市立美術館のスタッフの皆さまには、心から感謝です。

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暮れていく海峡の風景を眺めながら、夕食は港でふく定食(下関ではふぐをふくと書きます)を注文しました。

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ふぐの刺身、ふぐの唐揚げ、ふぐ汁というふぐ尽くし……まあ、二日間がんばったので。

外は夏越祭りのお囃子の音が賑やかです。
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