2011/3/5

第五福竜丸展連続トーク第1回  イベント

企画展「第五福竜丸事件 ベン・シャーンと丸木夫妻」展の連続トークの第1回として、詩人のアーサー・ビナードさんと元第五福竜丸乗組員の大石又七さんをお招きしました。

今回の企画展は、「ラッキードラゴン・シリーズ」を手がけたアメリカを代表する画家ベン・シャーンと、原爆の図のなかで《焼津》や《署名》といった作品を描いた丸木夫妻という、日米両国の芸術家の視点によって1954年の第五福竜丸事件を見つめなおそうという試みです。
絵本『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』を刊行し、忘れられてはいけない歴史を語り部として伝えようというビナードさんの詩人らしい意外性のある視線と、被爆の実体験を伝える証言者として長年活動されている大石さんの力強い思いは、展示から生まれる想像力を深く広げて下さるもので、とても刺激的な企画になりました。

TV局の取材もあり、ビナードさんは午前中から来館して展示を観て下さいました。

クリックすると元のサイズで表示します

興味深かったのは、ビナードさんが原爆の図第10部《署名》をご覧になったときの反応でした。
ビナードさんは大の自転車好き。
絵の前でふと立ち止まって「あれ、ここに自転車が描かれているね」とつぶやき……しばらく見入った後、「豆腐って漢字が書いてある!」
原水爆反対の署名運動の行列を描いた作品には、よくみると当時の庶民的な風俗がさまざまに描かれており、そのなかに、自転車を曳いてラッパを吹く豆腐屋の少年の姿があるのです。
「力……賀正の賀? なんて書いてあるんだろう?」
「加賀、じゃないですか。力のとなりの口が消えていて見えにくいですけど」
「加賀豆腐店か!」
フレームのがっしりした昔風の自転車、荷台にとりつけられた豆腐を入れる木箱に、思わず「この自転車、欲しいなあ……」とつぶやくビナードさん。
署名、という主題を離れて、この絵画が等身大の人間の視線から出発していることに、とても感動して下さったようでした。

クリックすると元のサイズで表示します

ビナードさんがレギュラー出演しているラジオ番組で告知して下さった影響もあって、トークイベントは約100名の方が集まる大盛況。
いつもは寒い美術館の館内ですが、企画展示室は熱気に包まれ、寒さを感じませんでした。

クリックすると元のサイズで表示します

「ベン・シャーンは社会派画家、と呼ばれるけれども、ぼくにはその言葉の意味がよくわからない。彼はなんでも描ける実力の確かな画家であり、社会的な事件を描いても絵になる力を持っている。社会派画家、という箱のなかに収めてしまうのはおかしい。むしろ、社会的主題を描かない画家を、ふにゃふにゃ画家とか、社会無視画家とか、そういう箱に収めて、ベン・シャーンはふつうに画家、と呼んだ方がいいのではないか」
いつもながらビナードさんの視点は新鮮でユーモアがあり、しかし、思わぬ方向から本質を突いてくるので、油断がなりません。
午前中に発見したばかりの《署名》の自転車の話も早速紹介し、多くの人が自転車を見つけるために絵を振り返って観ていました。ビナードさんが「自転車」という入口を示したことで、絵が今までと違うかたちで輝いてくるのが不思議です。
以前、ビナードさんが丸木スマの絵について語って下さったときも、「この絵のなかに住みたい」と言った途端、絵のなかの人や生きものたちが生命を得て動き出しはじめたように感じたことを思い出しました。

クリックすると元のサイズで表示します

大石又七さんのお話では、近現代史研究者の小沢節子さんが聞き手役を務めて下さいました。
実は事前に、第五福竜丸で被曝したときの証言からはじめて、徐々にその後の大石さんの人生をたどっていきましょう、と打ち合わせを行っていたのですが、熱い気持ちを抑えきれない大石さんは、「20歳で第五福竜丸に乗ったんですよね?」という小沢さんの質問に、最初から現代の核問題をとりまく状況に対する思いを力強く語りはじめたのです。
おお、さすが海の男は違う、と圧倒されつつも、この後どうするんだろう?とやや不安に思われたのですが、そこは小沢さんが時計の針を巻き戻すように丁寧に質問を重ねて、被曝の状況とその後の苦難の人生、証言をするようになった複雑な心境についての話など、貴重な言葉を聞き出して下さいました。

クリックすると元のサイズで表示します

最後はビナードさんと大石さんが現代の状況をめぐって対談。
大石さんが「被曝は私たちだけの体験だけではない。核実験はその後も続いているし、空気も水も汚染されている。誰もが被曝者になる世界を生きているということを、もっと感じてもらいたい」と語ると、ビナードさんも「私たちは皆、第五福竜丸に乗っているんだ」と応えていました。

   *   *   *

この日も多くのボランティアが、駐車場の整理や会場の設営を手伝って下さいました。
おかげさまで、たいへん充実したイベントとなりました。
閉館後は、NHKさいたま局のH記者と第五福竜丸展示館のYさん、スタッフたちで近くの焼鳥屋で打ち上げも行い、さらに濃密で充実した一日になりました。
3



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ