95歳 絵筆に情熱
和歌山市出島の岸野科(きしのしな)さん、95歳。日本画を描き続けて約30年、今でも毎日必ず絵筆を握る。これまでに描いた作品は数え切れない。県展や和歌山市展で入賞し、個展も14回開いた。「もっと絵がうまくなりたい」。岸野さんの情熱は、なお衰えることがない。 (森本未紀)

孫とひ孫を描いた作品「私の宝」の横でほほえむ岸野さん=和歌山市出島で
今年7月、和歌山市のギャラリー龍門で個展を開いた。新作約50点を展示し、多くのファンらが訪れた。そのなかには、「岸野さんのように、年を取っても絵が描けますように」と岸野さんに握手を求める人もいた。
岸野さんが本格的に絵を描き始めたのは66歳。同市の「老人大学」に1期生として入学し、日本画家の山東光風さんに習った。
戦時中の疎開生活、6人の子育て、そして孫の世話。「生活することだけで精いっぱいで、好きなことをやりたい気持ちをずっと抑えてきた」という。絵画は、女学生時代に油絵を描いた経験が少しあっただけだった。
ようやく自由な時間ができて始めた日本画。繊細さ、色の美しさ……その魅力にのめり込んだ。「絵を描いていると、夕飯に呼ぶまでずっと続けているんですよ」。同居する次男の妻、利江さん(56)は話す。
「絵ばっかり描かんと、はよご飯の準備せえ」。夫の昇さんに怒られることも、たびたびあった。昇さんは16年前に亡くなった。入院していた昇さんが、看護師らに「妻は絵が上手で、何度も賞を取っている」と自慢しているのを知ってうれしかった、と岸野さんは目を細める。
昇さんが運転する車に乗って、2人で岩出市の根来寺や県植物公園緑花センターなどに出かけ、風景や草花を写生した。しかし今は、部屋で絵を描くことが多い。
モデルは、遊びに来る孫やひ孫たちだ。孫は14人、ひ孫も10人以上。「みんなに良い絵を残していきたい」と、個展に出した絵をプレゼントする。
95歳の今でも、身の回りのことは何でも自分でする。毎朝5時に起きて新聞を取りに行き、朝と昼の食事は自分で作る。でも、繊細な日本画を描くのには苦労もあるという。「目も悪くなってきたし、手もいうこときかないようになってきた」。細い直線を描く時は、筆を持つ側の小指を紙の上に支えとして置いて、線がぶれないように工夫している。
「畑仕事をしたり、重いものを運んだりすることはできないけど、絵なら筆さえ持てればいいでしょ。絵が大好きだし、これからもずっと描き続けていきたい」
家族は「100歳で個展を開こうよ」と岸野さんを応援している。
2007年09月18日 asahi.com> マイタウン> 和歌山> 記事

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