ニュースBOX・福島:
福島刑務所の不祥事続発 「人権意識欠如」の声 /福島
毎日新聞 2010年11月16日 地方版
◇背景に刑務官の権限増も
福島刑務所(福島市南沢又)と、併設の福島刑務支所でこの1年、刑務官による不祥事や「人権侵害」として改善を求められるケースが相次いで発覚した。こうした事態に、職員の人手不足や人権意識の欠如が要因と指摘する声がある一方で、同刑務所側は組織的な問題点を否定している。その背景を探った。【蓬田正志】
◇東北最大
同刑務所では昨年暮れ、当時60歳の看守部長が男性受刑者に性的行為を強要したとして特別公務員暴行陵虐容疑で逮捕された事件以後、刑務官の不祥事が相次いで発覚した。また、県弁護士会が「受刑者の郵便物を不当に検査して人権を侵害した」などとして改善の勧告、警告を3度行っている=別表参照。
同刑務所は、不祥事発覚のたびに再発防止に努めるとのコメントを出したが、結果的には続発した。これに対し「福島刑務所は規模が急拡大し、職員の負担が増すなど組織のひずみが出ている」と見るのは新村繁文・福島大教授(刑事法)だ。
主に再犯者を収容する同刑務所は05年に改築工事が完了した。収容定員は615人から1655人と約2・7倍に増え、女子を収容する刑務支所(定員500人)も併設。東北地方最大の刑務所になった。その半面、現在約1200人を収容する刑務所の職員定数は、改築前(04年度)の189人から09年度でも224人と2割弱増えただけ。刑務支所の職員定数は108人となっている。
◇要員と意識
改築前の福島刑務所に勤務した元刑務官の男性は「当時から人手はぎりぎりだった」と振り返る。さらに「刑務官の上下関係の厳しさや、休みが思うように取れない不満が常にあった」という。新村教授は、人手不足のストレスのはけ口が、弱い立場の受刑者や若手の刑務官に向けられている可能性を指摘したうえで「刑務官不足が改善されない限り、不祥事は全国どこでも起こりうる」と話した。
受刑者らの処遇や権利は、07年施行の「刑事収容施設・被収容者処遇法」(新法)が定めているが、県弁護士会の本田哲夫・人権擁護委員長は「刑務所が新法の趣旨を理解していない」と批判する。同委員会には毎年、受刑者から「手紙を勝手に検査された」「必要な医療が受けられない」などという人権救済の申し立てが約30件あり、ここ数年はほぼ横ばいの状態という。
本田弁護士は「再三の申し立てで、信書の不当な検査は減っているものの、刑務所は不利益なことは回答しない旧態依然の姿勢だ」と話した。
◇個人の問題
こうした指摘に、福島刑務所の木内久雄総務部長はおおむね否定的な見解を示している。不祥事の続発については「他の刑務所でもある。指導不足はあったと思うが、(刑務官)個人の資質の問題」とし、要員不足との見方にも「すごく困っている状態ではない。受刑者はぎりぎり管理できている」と話した。
木内部長によると、同刑務所では不祥事発覚のたびに臨時の職員会議で勤務姿勢を正し、経理のチェックを厳しくするなどの再発防止策を取った。また、職員には毎月1回、30分〜1時間の研修で人権や救護方法、メンタルケアなどの教育をしているという。
木内部長は「職員の法律的な理解は進んでいる」と述べる一方で、一連の不祥事については「(監督責任者として)責任はあると思う」と話した。
◇声上げにくい
刑事施設での人権状況の改善などを目指すNPO法人「監獄人権センター」によると、全国的には受刑者の過剰収容は減っており、人手不足が刑務所での不祥事続発の要因とは考えにくいという。
同センターの菊田幸一副代表は「不祥事が続く背景には、新法で所長や刑務官の権限が増したことがある。刑務官が裁量で受刑者の点数を決め、それを基に手紙や面会許可の回数が決まるため、受刑者は処遇に不満があっても声を上げにくくなった」と主張する。
さらに、受刑者の手紙の検査については「犯罪防止のために最低限しか認められないのに、刑務所が拡大解釈しているのでは。受刑者が不服申し立てをしても、同じ法務省内で審査するのでほとんど退けられる。問題があれば、受刑者が訴訟を起こして明るみに出すしかない」と話した。
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◇福島刑務所・同刑務支所を巡る最近の出来事
※肩書、年齢は当時
09年12月 看守部長(60)が受刑者に性的行為を強要したとして特別公務員暴行陵虐容疑で逮捕
〃 受刑者の手紙発送禁止を告知せず約40日間放置したなどとして県弁護士会が改善勧告
10年 5月 受刑者から弁護士への手紙を不当に検査したとして、県弁護士会が改善勧告
6月 受刑者の知人が面会室に不正に持ち込んだ携帯電話のカメラで刑務官らを撮影、ブログに掲載したことが発覚
6月ごろ 刑務官同士の暴行があった疑いがあるとしして内部調査開始(調査結果は未発表)
10月 受刑者から弁護士への手紙を不当検査したなどとして県弁護士会が最も重い警告
〃 会計担当の副看守長(41)が05〜10年に受刑者の所持金計4000万円を着服したとして業務上横領容疑で書類送検。副看守長は自殺したとみられる

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