性暴力を問う〜被害者たちの叫び 第2部
病巣<1>支配欲、理不尽な犯行
被害女性に思い至らず
きっかけは、交際相手とけんかして、憂さ晴らしに出た深夜のドライブだった。
車の前を、見知らぬ女性が一人で歩いていた。
〈楽しそうに見えた。自分の彼女の姿にダブり、急に腹が立ってきた〉
交際相手の借金を肩代わりし、返済のために働きづめだったが、その間も交際相手は飲み歩いている様子で、他の男性の影もあった。鬱憤(うっぷん)がたまっていた。
女性の後をつけ、襲った。
〈ドキドキしたが、簡単だった〉。以来、気持ちが行き詰まるたび、車で一人歩きの女性を狙った。
〈気分がすっきりした。またやってしまったという後悔、ばれないかという焦りもあったが、やめられなかった〉
犯行時、被害女性に思いを致すことはなかったという。
男は30歳代。2年余りで10人以上を襲った強姦(ごうかん)などの罪で起訴され、近畿地方の拘置施設にいる。犯行の経緯などを便せん21枚に記した手紙を、読売新聞に寄せた。
〈逮捕されて良かった。事の重大さに気づかず、もっとひどいことをしていたかもしれない〉〈自分の勝手な行動で深い傷を負わせてしまった。何度謝罪しても被害者の心の傷は決して消えないと思う〉
反省と謝罪の言葉。しかし、文面の大半は、交際相手への恨みと〈女性を見るだけでイライラした〉などの一方的な怒りで占められていた。男の、更生の行方はわからない。
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「性暴力は、性欲だけでは説明できない」
少年院や刑務所で多くの加害者と向き合ってきた藤岡淳子・大阪大教授(非行臨床心理学)は、加害者の心理をこう指摘する。
「支配したい、男らしさを誇示したい……。そんな欲求を、性という手段で自己中心的に満たそうとする。強姦犯は特に怒りや支配欲が強い」
さらに、被害者に責任を転嫁して性暴力を正当化する、ゆがんだ〈強姦神話〉も後押ししているという。
内山絢子・目白大教授(心理学)が、性犯罪の容疑者553人と、無作為抽出した一般男性688人を比較した調査がある。
「女性は『嫌だ』と言っても、本当はそんなに嫌がっていない」は容疑者が21・1%(一般2・5%)、「セックスしてしまえば、女性は自分のものになる」が13・5%(同0・9%)、「女性は誰でも強姦されてみたいと思っている」が4・5%(同0・6%)――。各設問に賛成した割合は、両者で大きな開きがあった。
理不尽な思考。「ストレスや怒りの解消法はいくらもある。なぜ何の関係もない相手にぶつけるのか」。数年前に強姦被害に遭った女性は、やりきれなさを募らせる。
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「レイプ行こうや」
昨年5月に通りがかりの女性を車に押し込んでけがを負わせたとして、集団強姦致傷罪に問われた20歳代の男4人の犯行は、そんな「冗談半分の言葉」で始まったという。
「みんなで盛り上がり、反対する者はいなかった」「場の雰囲気を崩したり、仲間に嫌われたりしたくなくて断れなかった」――。
奈良地裁で行われた裁判員裁判の審理。被告人質問では身勝手な弁明が続いた。
一方、被害女性の代理人は、女性が一人で外出できなくなるほど心に深い傷を負った、と訴えた。
泥酔させた女性を襲うなど、若者の集団による性暴力は後を絶たない。共通するのは、仲間内の「ノリ」で犯行に走る安易さと、性被害の深刻さへの無理解だ。
同11月、4人に有罪を言い渡した後の記者会見で、裁判員らは、率直な感想を述べた。
「自分と同年代で、友達でもおかしくない普通の人が、場の雰囲気で人権を踏みにじるとは」「案外簡単に、自分や家族が被害者や加害者になってしまうのではないか」
◇
「なぜ起きるのか、どうしたら防げるのか」「社会の問題として考えなければ」。連載第1部「被害者たちの叫び」には、そんな反響が多く寄せられた。第2部では、性暴力の背景を検証し、加害者の心理と更生を考える。
(2010年4月13日 読売新聞)

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