えん罪って何 なぜ起こるの
ジャン:罪を犯していないのに、17年半も刑務所に入れられていた人がいたって本当?
吉永記者:「足利事件」で犯人とされた菅家利和さん(62歳)のことだね。えん罪だったということが分かって、6月4日に千葉刑務所から出られた。
ケン:エンザイ?
吉永記者: やってもいない罪で犯人にされてしまうことだよ。「無実の罪」ともいうね。
ポン:えーっ! どうしてそんなことが起きるの?
●やってもいないのに犯人にされてしまう
◆決めつけ、自白の強要で起きる
◆足利事件は科学捜査の過信も
◆取り調べをビデオにしておけば
吉永記者:えん罪が起きる原因はいろいろある。たとえば、警察が「おまえが犯人だろう」と決めつけて捜査する「見こみ捜査」も問題だといわれているね。足利事件の場合は、見こみ捜査に加え、科学的な証拠を過信しすぎたことだった。
ポン:アシカガ事件ってどんな事件なの?
吉永記者:1990年5月、栃木県足利市で、パチンコ店の駐車場からいなくなった4歳の女の子が、次の日、近くの河原で死んでいるのが見つかった事件だ。91年12月に菅家さんが「犯人」と疑われて逮捕され、無期懲役の刑が確定した。
ケン:どうして菅家さんが犯人にされたの?
吉永記者:一番大きかったのは、女の子の服に残っていた犯人の体液のDNA型と、菅家さんのDNA型が「一致」したことだね。
ポン:ディーエヌエー?
吉永記者:ぼくらの体を作っている一つひとつの細胞の中にある、生き物の設計図のようなものだよ。DNA型は指紋のように一人ずつちがっていて、いまでは、世界中のすべての人を区別できるといわれているんだ。
ジャン:それなら犯人をまちがえることもないんじゃないの?
吉永記者:実は足利事件が起きた当時は、このDNA型鑑定技術が十分でなく、いまほど正確に調べられなかったんだ。当時の技術だと「千人に一・二人」の確率でしか区別できなかった。いまの技術だと「四兆七千億人に一人」という。その技術を使って、今年になってもう一度鑑定をやり直してみたら、本当は一致していないことが分かった。最高検察庁や栃木県警は菅家さんにあやまり、裁判をやり直すことが決まっているよ。
ケン:菅家さんは「やってない」っていえばよかったのに。
吉永記者:最初は「やってない」といい続けていたんだ。でも、十時間以上も警察の取り調べを受け、「証拠がある」とせまられて、「やりました」といってしまったんだ。菅家さんは当時の取り調べについて、「おまえがやったんだ、と何度もくり返され、やってないといい続けたが、みとめてくれなかった。信じてもらえないならとどうでもよくなり、『やりました』と話してしまった。頭の毛を引っ張られたり、けとばされたりして本当に怖かった」と話している。
ケン:足利事件のほかにも、えん罪ってあるの?
吉永記者:79〜84年には、死刑が決まっていた四人の男性の裁判がやり直されて、いずれも無罪になった。無実の罪で約30年も刑務所に入れられていたんだ。
ジャン:最近はなくなったの?
吉永記者:そんなことはないよ。2002年には富山県氷見市で、女性に乱暴した疑いで男性が人ちがいで逮捕され、二年以上も刑務所に入れられた事件があった。真犯人が現れて、無実であることが分かった。
ケン:えん罪をなくす方法はないの?
吉永記者:警察などの取り調べのようすをビデオに撮っておけば、えん罪を減らすのに役立つといわれている。取調官は無理やり白状させたりできなくなるからね。
ポン:早くそうすればいいのに。
吉永記者:一部だけれど、もう行われているんだ。ただビデオで撮るのは、容疑者が犯行を認めた後からだけ。取り調べを最初から最後まで撮るのは、警察などが「捜査がやりづらくなる」といって反対しているんだ。
えん罪をなくすには、まず誤った判決を出した裁判官や捜査した警察官らが、なぜ誤ったのか調べて明らかにすることが大切だと思うよ。
●きょうのポイント
▼やってもいない罪で犯人にされてしまうことを「えん罪」という。足利事件で犯人とされた菅家利和さんは6月、17年半ぶりに刑務所から出られた。
▼足利事件のえん罪は、精度の低い初期のDNA型鑑定とうその「自白」を過信したことから起きた。
▼取り調べのビデオ撮影がえん罪を減らす可能性がある。
記者:吉永 岳央記者(朝日新聞宇都宮総局)
2009年7月8日 提供:朝日学生新聞社

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