市民が裁く 受刑者の姿
罪を犯して刑に服している受刑者は、自らの罪をどのように考え、被害者や被害者家族にどう謝罪しようとしているのか。鳥取刑務所(鳥取市下味野)で更生に向けて取り組む受刑者の様子や被害者に対する反省の気持ち、これまで語られることの少なかった「裁かれた側」から見る裁判員制度の意味を追った。
【下】 窃盗繰り返し服役する受刑者
親をみとることできず 「これからは人並みに」

「自分のせいで被害者の方が生活に困っていたと考えると申し訳ない。犯罪を続けたことで自分の人生も狂ってしまった」
目元や口元に刻まれた何本ものしわがこれまでの人生を物語る。窃盗をやめられず服役と出所を繰り返してきた四十代後半の男性受刑者は背中を丸め、伏し目がちに後悔の言葉を口にした。
つまずき盗みに手を染めるようになったのは小さなつまずきが原因だった。二十代のころ、最初の就職先のファストフード店で上司と仕事のことでけんかになり、勢いで店を飛び出した。両親に何の相談もしないで辞めたことがひどく後ろめたく、家出同然で親元を離れた。それからは貯金を切り崩しながらアパートで生活した。
「最初に仕事を辞めていなければ違う人生があったと思う」
と語る男性受刑者
「仕事は苦しいというイメージがついたので、また就職しようとは思わなかった。それからは遊んで暮らすだけの毎日だった」
やがて蓄えが底を尽き、民家などに侵入して現金を盗むようになった。逮捕されて刑務所で服役、出所するとまた窃盗を繰り返した。現在の刑務所は八回目だ。
「最初のころは、盗みをした後に警察官を見ると捕まるんじゃないかとビクビクしていたけど、簡単に現金が手に入るうちに、悪いという感覚が少しずつまひした」
両親への思い
刑務所に入るたび、両親が面会に足を運んでくれた。せっけん、タオルなどを忘れず差し入れてくれ、父親が亡くなると、七十歳を超えた母親が一人で訪ねてきた。味気ない刑務所生活の中で家族との会話は唯一、心弾むものだった。
数年前、母親の手紙が突然届かなくなった。「どうしたの」と何度も手紙を書いたが返事は来ず、一カ月後に刑務官から「病気で亡くなった」と聞かされた。
「親をみとることもできず、親不孝のまま亡くしてしまった。まじめに生きて大事にしてやればよかった…。罪を反省してこれからは人並みに生きたい」
残った三年の刑期を務めた後は両親が眠る墓に参るつもりだ。
適切な量刑
裁判員制度のスタートまで一カ月を切った。法の専門家ではない一般市民が参加する制度。関係者の中には、被害者感情に引きずられて必要以上に重い量刑になることを心配する意見もあり、裁判員には、被害者だけでなく、加害者の立ち直りや更生への視点も求められる。
多くの受刑者が反省する姿を見てきた鳥取刑務所の大岡満庶務課長は強く訴える。「被害者の気持ちも当然大事にしないといけない。が、裁判員には、被告が立ち直るために適切な刑は何かということを考えて裁いてほしい」
西日本新聞 2009/04/24の紙面より

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