被爆手帳申請、来日要件例外認める
広島地裁判決
全面勝訴の垂れ幕を掲げる支援者=31日午前11時41分、広島市中区の広島地裁前、青山芳久撮影
来日しないことを理由に、援護を受けるのに必要な被爆者健康手帳の申請を却下されたブラジル在住の被爆者2人が、国と広島県を相手に却下処分の取り消しと計330万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が31日、広島地裁であった。能勢顕男裁判長は来日を求めることには一定の合理性があったとしたうえで「来日が困難な場合など特段の事情が認められる場合にも却下するのは裁量権の乱用で違法だ」として却下処分を取り消し、国に計165万円の支払いを命じた。
来日できない被爆者の手帳取得を認めた初めての判決で、来日を例外なく手帳交付の条件としてきた国の運用が違法と判断された。今年6月には在外被爆者が来日しなくても手帳を取得できるように被爆者援護法が改正されており、今年末に施行される。
訴えていたのは、広島で被爆した女性と長崎で被爆した男性。戦後ブラジルに移住し、男性は06年4月に96歳、女性は07年3月に91歳で死亡。訴訟はいずれも遺族が承継している。
判決は「居住地の都道府県知事に申請しなければならない」と定めた援護法第2条の解釈について検討。被爆状況などを面談で確認し、審査の適正を図るため、申請者を日本国内の在住者とすることには一定の合理性があると述べる一方、「身体的または経済的事情から来日が困難で、関係書類から申請者の被爆時の状況が判断できるなど、特段の事情がある場合にも却下するのは違法」と判断し、来日要件の例外を認めた。
さらに判決は、原告は以前から手帳交付で援護を受けることを希望していたが、国が74年に出した違法な「402号通達」(03年に廃止)によって日本から出国すれば援護を打ち切られると考え、来日してまで申請することをためらったと認定。援護法のらち外におかれていたことで精神的損害をこうむったとして、賠償を命じた。
判決などによると、2人は広島、長崎両県市が海外に居住する人の被爆の事実を認めて交付する「被爆確認証」を取得。来日さえすれば手帳を受け取れる状態だった。06年3月、代理人を通じて広島県に手帳交付を申請したが、翌月、来日していないことを理由に却下された。
同じ問題をめぐっては、韓国在住の被爆者が却下処分取り消しを求めた訴訟で06年9月、同じ裁判長が請求を棄却、原告が控訴している。今回の裁判では原告の健康状態が悪かったうえ、来日には40時間もかかることや、広島県職員がブラジルで女性と面談していたことが考慮された。
被爆者健康手帳を持つ海外居住者は三十数カ国に約4300人。旧厚生省は「402号通達」で被爆者が日本から出国すれば手当支給を打ち切ってきたが、この施策を違法と訴えた複数の訴訟で01年6月以降、国の敗訴が相次ぎ、手帳所持者は国外にいても手当が受給できることになった。(鬼原民幸)
asahi.com ニュース>社会>裁判 2008年7月31日13時38分

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