薬害C型肝炎 一律救済でも課題(和歌山)
写真 【C型肝炎検査受診を呼び掛ける新聞折り込みの政府広報】
薬害C型肝炎の被害者を一律救済するための特別措置法が施行されたが、その対象は推定1万人以上といわれる患者の一部にすぎず、救済されない多くの患者が生じている。血液製剤の投与を証明できずに救済対象から外れることになった田辺地方に住む70歳の女性患者は紀伊民報の取材に応じ、「記録のない人はいったいどうしたらいいのか」と不安を訴えた。
「一律救済」。昨秋、報道でこの言葉を知った時、女性は居ても立ってもいられない気持ちになった。「もしかしたらわたしも救済の該当者かもしれない」。保健所、厚生労働省、弁護士…。思い当たるところに電話をかけた。
女性が自身のC型肝炎ウイルス感染を知ったのは、既に肝炎を発症していた60歳の時だった。健康診断で肝臓機能を示す数値が平均を大きく上回り、再検査を受けた。診察を担当した医師は言った。「C型肝炎です。多量の出血などに心当たりはありませんか」
すぐにピンと来た。27歳で出産した際、胎盤が子宮口をふさぐ「前置胎盤」になり、大量の出血を経験。輸血も受けた。「止血のため間違いなくフィブリノゲン製剤を使用していた」と女性は言う。
告知を受けて以来、苦しい闘病生活に入った。インターフェロン治療は2000年から始め、半年間はほぼ毎日通院し、治療費が月に16万円を超えたこともあった。
薬の副作用で体の抵抗力が弱まり、まるで「ナメクジのよう」な状態になった。頭皮が突然かゆくなり髪の毛が抜け落ちたこともあった。楽しみにしていたサークル活動もあきらめ、親の面倒もみられなかった。いまは状態が安定しているものの投薬治療の終わりが見えないという。
救済への道もまた、閉ざされた。特措法では、フィブリノゲン製剤が投与されたことを証明する必要があるが、病院にカルテは残っていなかった。そのため、原告団にも加わることができなかった。
女性は政府や行政に対し、2つのことを訴えたいという。1つは、治療を受けているすべての人に対して本質的な救済を図ること。もう1つは、いまだに感染を知らずにいる人のため肝炎の検査を義務化することだ。
女性は言う。「わたしは何も悪いことをしていないのに感染した。薬害肝炎に悩む人は皆同じです。だから区別をしないで治療している人を助けてほしい。この苦しみを次世代の人に経験させないためにも、一刻も早く取り組んでほしい」。大切な税金だからこそ「みんなが納得する使い道を選んでほしい」と訴える。
薬害肝炎が社会問題として取り上げられ情報が広まるとともに、女性の周囲には「投薬で死なずに済んだのだからまし」「感染が怖いから、もらったものを捨てた」と、心ない言葉を告げた人もいた。肝炎に対する正確な情報を多くの人に知ってもらうことも、切に願っている。
それでも女性は「投げやりにならず、前向きに生きていきたい」と話す。都市部に比べ、地方では弁護団や被害者の会、患者会も少ない。これからは「せめて手を取り合って苦しみを分かち合えれば」と、紀南での患者会発足を期待している。
【薬害肝炎問題】
旧ミドリ十字社の「フィブリノゲン」(1964年承認)など、C型肝炎に汚染された血液凝固因子製剤が、手術や出産時の止血剤として投与されたことで感染被害が拡大した問題。被害者救済の特別措置法に基づく被害者認定を受ければ、症状に応じて1200万〜4000万円が給付されるが、そのためには国を提訴して製剤投与と感染の関係を立証する必要がある。C型肝炎は肝臓の細胞が破壊され肝臓の働きが悪化する病気で、血液を介して感染する。自覚症状がない場合が多い。
紀伊民報 agara 最終更新:2008年1月22日17時1分

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