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ウヨ・ウヨ・ウヨ! |
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ウヨ太くんを語るうえではずしてならないのが、学校の上映会でおこした「トラトラトラ事件」でしょう。 映画の戦闘場面に興奮するあまりはげしく暴れだし、とうとう救急車のお世話になったという出来事です。 その日、ウヨ太くんのクラスでは、先生の指導により真珠湾攻撃をえがいた『トラ・トラ・トラ!』をみんなで観ることになりました。 学級委員のゆとりちゃんは、先生の意図がわからずに「戦争映画なんて」と反対しましたが、先生はあの戦争がなぜ起こったかを生徒たちにしっかりと見せておきたいと言うのです。 視聴覚室にみんな集まり、映画が始まりました。 太平洋戦争での日米開戦の経緯をたどる内容で、巨費が投じられながらアメリカ本国で大赤字となり、日本でしか人気の出なかった超大作です。 ![]() 前半はとても退屈な展開で、みんなだれてきましたが、先生は歴史と映画に非常に詳しい人で、物語の進行に合わせていろいろ解説を加え、飽きさせないようにしてくれます。 「実在の山本五十六は、こんな立派な人物じゃなかった」 「アメリカで暮らしながらアメリカの国民性が見抜けず、戦争を早期に片付けようとした」 「映画の製作者は日本側を思いやり、東条一人を悪役にしているが、実際の海軍は陸軍への対抗意識ばかり強く、それが日米開戦の大きな原因となった」 ところで、そこにはウヨ太くんもいたのです。 そして普段のウヨ太くんなら、先生が話したようなことを聞こうものなら、たちまち頭に血がのぼって、はげしく噛み付かずにいられないでしょう。 「デタラメばかり並べるな、この反日教師! 山本五十六元帥はみんなが尊敬する偉大な軍神だ! 大東亜戦争は日本が正義の防衛戦争だ! 白人からアジアを解放したんだぞ! 原爆おとしやがって、真珠湾がなんだ〜! 日米開戦はルーズベルトの陰謀なんだーっ!」 でも、ウヨ太くんは静かにしています。 それもそのはず、なかなか戦闘場面にならないのが退屈で、ウヨ太くんは眠ってしまっていたのです。 これ幸いと、先生の話は続きます。 「攻撃隊を指揮した淵田という隊長は、戦後は悔い改めてキリスト教の伝道師になり、アメリカ各地を飛行機でまわり、日米の和解に尽くした」 「映画では開戦通告の遅れがアメリカ人を怒らせたように描かれるが、ほんとうは和平交渉と並行して不意討ちの準備を進めたところが問題となったので、かたちばかりの開戦通告が間に合ったとしてもアメリカ人はやはり憤激しただろう」 「日本は対英攻撃も奇襲で始めたが、イギリスにははじめから通告などしなかった」 ゆとりちゃんには初めて聞かされることばかりでした。 そして不思議に思いました。 テレビなどでは、山本五十六は偉大な人物で、外交官が怠慢だったせいで日本は卑怯者にされたようになってるけど、なぜちゃんとしたことを教えないんだろう? さて。 そうするうち映画は佳境に入り、待ちに待った真珠湾攻撃の場面になりました。 居眠りしていたウヨ太くんもここで目を覚まし、画面を食い入るように見つめます。 ウヨ太くんだけではありません。 みんなが眼前で繰り広げられるものすごい迫力の空襲場面に大興奮の状況。自国の軍隊が敵軍をこてんぱんにやっつけるのに拍手喝采しています。 それが年少者にとって普通のありようなのでしょう。 真珠湾に上空から襲いかかる日本海軍機の大編隊! 爆撃で連鎖爆発し、炎に包まれる米軍戦闘機の群れ! 投下弾が命中し、巨大な爆炎を吹き上げる戦艦! みんな、大喜びでした。 ![]() 見ているうちゆとりちゃんは不思議になったので、かたわらの先生にききました。 「アメリカ映画なのにどうして、米軍があんなにやられるところを見せるんですか?」 「インディアンが騎兵隊に立ち向かう西部劇があるよね。観る人がインディアンのほうを応援するようにできてるだろう? アメリカの映画人は対立する両方を客観視できるから、かつての敵側が主役で自分たちが敵役になった内容の物語でも、悪びれないでドラマに仕立てることができる」 「あ、なるほど」とゆとりちゃんは納得しました。 思い当たる映画がいくつもあるのです。 「ところが日本じゃ、兵隊さんが戦地で悲惨な目にあうとか、無抵抗の女子供が空襲の犠牲になるとか、そんな一方的視点のものしかつくれない。不自由なものだ。秀吉の朝鮮遠征や南京事件を相手側の視点に立って描く……。そういう映画をつくるのは日本人には五十年たっても無理だろう」 「でもアメリカ人は、『風と共に去りぬ』のように負けた南部側が主役で北軍が悪役に描かれた映画でも大傑作に仕立て、世界的な人気作にできる……だから、彼らは強いんだ」 ゆとりちゃんには、先生がこの映画を見せたかった理由がわかった気がしました。 度量が大きいんだなあ、アメリカ人って。それから、先生も。 それなのにみんなは、ハリウッドが描いた日本の大勝利を見せられ、子供のように盛り上がっている。 日本人は今でもこんな映画に呑みこまれていい気になるなんて、いつまでもアメリカに勝てないのは当然かも。 一方、先生の意図も映画製作者の意図もまるでわからないのがウヨ太くんです。 ウヨ太くんには眼前でエキサイティングに展開する巨大な修羅場だけがすべてらしく、その世界にどっぷりはまりこんだ精神状態のまま叫びだしました。 「ざまあみやがれ! 日本の強さがわかったか、アメ公どもめ!」 ゆとりちゃんは呆れて口がきけなくなりました。 あまりの頭の悪さ、映画の作り手とくらべた人間の器のちっぽけさ。 ウヨ太って、なんて恥ずかしい子なのかしら。 いくら自分に自慢できるものが何もないからって、アメリカの戦争映画で日本が勝つところでいい気になって米軍を罵るなんて。 ウヨ太くんを見ていると、ゆとりちゃんは自分まで恥ずかしくなってくるのです。
「ざまあみろ、在日!」 意味不明の罵詈をまき散らし、喜悦して小躍りするウヨ太くん 「ざまあみろ、在日!」 ウヨ太くんはとうとう、まったく関連性のない差別的な言葉をわめき散らし、小躍りをはじめました。 「日本軍はこんなに強いんだぞ! おまえらにこれだけアメリカと戦えるかよ?」 ゆとりちゃんは首をかしげました。自分の知るかぎり、在日コリアンの子なんてクラスに一人もいないのに。 ウヨ太くんはだれを相手に罵っているのかしら? みんな、気味悪いのとやかましいのとで、ウヨ太くんのそばから離れていきますが、ウヨ太くんはそんなのにおかまいなし。 在日コリアンを前にした気でいるのでしょう、その頭の中でつくりあげた標的を相手に、馬鹿にした言葉をえんえんと吐き続けます。 「おまえらには、ゼロ戦も大和も日本刀もないじゃねえか! こんなすごい映画を朝鮮人が主役でつくったことあるか? てめえらなんて、何もできねえちっぽけな貧乏国なんだよ! あははは〜、在日ども涙目〜!」 ウヨ太くんはほんとうに狂騒の呈でした。 かっこいい日本軍の戦勝の様子に、誇り高ぶり、まるで自分がこの映画をつくったかのようにのぼせ上がってしまい、映画の中の日本軍ばかりか映画『トラ・トラ・トラ!』そのものが自分の功績であるかのように自慢しているのです! これまで自分のことで何も誇ることができずに抑えこまれ、溜まりに溜まっていた劣等感が愛国的プライドを起爆剤として一気に、それも押しつぶされ歪みきったかたちのまま噴き出したという感じ。 ケタケタケタと引きつり笑いながら、本人だけにわかる理屈でなりたった野次り言葉を憎々しげにまくし立てる。 ウヨ太くんの様相は、滑稽を通りこして痛々しくなってくるほどでした。 「ウヨ太、おとなしくしろ」「すわって観ろよ」「迷惑じゃないの」 あまりにもうるさいので、みんな口々に制します。 「なんだと、在日め」 ウヨ太くんは、ぎらぎらと狂気を宿した眼で仇のように睨みつけてきます。自分に文句を言う子はみんな在日コリアンに見えるらしいのです。 それにしても在日コリアンだからどうだというのでしょう。 「返水くん、静かにしたまえ」 ついにたまりかねた先生がウヨ太くんを注意しました。 「だまれ、この在日教師!」 ウヨ太くんは言うことをききません。 「在日だと?」 先生は眉間に皺を寄せました。 「きみは嫌いなものはなんでも在日をつけて呼ぶが、そういう侮辱の仕方はやめろ。いいか、返水。きみがもし在日コリアンの子だったなら、どういう気持ちになると思う?」 先生の道徳的な言葉はかえって、ウヨ太くんを激情させました。 ウヨ太くんは、嫌韓狂がコリア系の人を地上最低の人種と決め付けるデタラメな根拠を真に受けていて、先生の戒めを自分への最大の侮辱と受け取ったからです。 「きみが在日コリアンの子だったら」だとお? このウヨ太様をあの世界最低の奴らといっしょにしやがって! ウヨ太くんは、ポケットからなにか取り出してかまえました。 カッターナイフです。 「うわ!」「ドス抜いた」「やだ、やだ、やだ〜」 ほとんどの子は、ウヨ太くんが怖いのと戦闘場面が見たいのとで、前のほうへ移っていきました。だって、映画の戦争のほうが迫力あるし、おもしろいし。 やばいぞ。でも、先生がなんとかしてくれるさ。 ゆとりちゃんほか少数だけがそばに残り、息を詰めて二人のやりとりに目を凝らします。 先生は年長者らしいあわれみの目でウヨ太くんを見ました。 「そんなもので何を守るつもりだ?」 ウヨ太くんはとり憑かれたような真顔で答えました。 「愛する祖国ニッポンを、在日や反日左翼からだ」 ゆとりちゃんは、殺気立ったウヨ太くんの様子に震えがとまりません。それでも先生にすがりつきたくなるのをかろうじて堪えています。 「ニッポンを守りたい? だがニッポンってなんだ? 一億三千万が暮らす島国のことか? きみ一人ですべてを回り、すべての人と会ったのか? その中できみを知る人がどれだけいるんだ? きみにとって日本とは、この町と学校ときみの家のことだろ?」 「だまれ。ぼくのまわりは、ゴミ溜めにクズみたいな奴ばかり。でも、本当のニッポンはもっと美しい国だ」 「そうか。ゴミにクズばかりか。だけど、きみとおなじ日本人だぞ。同胞への思いやりはどこへやった?」 「だまれ、だまるんだ!」 「日本が好きだったら、まずまわりのものを、級友たちを思いやれ。みんな、きみの愛する日本の一部だ。きみがうるさくて、迷惑してる」 「なにが級友だ。偶然こんなクラスで一緒になっただけで」 「それじゃ、きみとわたしも偶然こんな国に生まれた同士でしかないわけだ」 「だまれと言っただろ、この反日左翼! おまえも学校も、こんな町も大きらいだが、ぼくはニッポンのためならいつだって死んでやる」 「国のために死ぬなんて、ちっとも立派なことじゃないぞ。縄張りを命がけで守るんじゃケダモノと同じだ。それより知らない人と友達になるほうがよほど勇気がいる。だいいち、日本は世界中と仲良くしないと生きられない国だ。きみのように日本が特別な国だと自惚れ、世界から孤立させてしまうことこそ本当の反日行為のはずだ」 「このウヨ太さまが反日だって? よくも言ったな」 「日本人なら人間らしくあれと教わっただろ。同級生に迷惑かけたり在日の人を馬鹿にしたり、きみのやることはすべて、人の道からはずれてるじゃないか。人の道も守れないものが国を守れるのか」 「だまれーっ! のど笛をかき切ってやる!」 ついに止め金のはずれたウヨ太くんは、先生めがけて突進しました。 動脈が裂かれ、血しぶきがほとばしります。 「ぐえーっ!」 突然。 電源が切られ、映写が中断されました。 場内は真の闇に包まれ、大騒ぎになりました。 「ぎゃーーーっ!!!」「戦闘場面が見られない!」「隣りの子がさわった〜!」 機転をきかせたゆとりちゃんが視聴覚室を抜け出し、すばやくブレーカーを落としたのです。 でも時すでに遅しで、大量の血が流れていました。 ウヨ太くんは血まみれで鼻をおさえ、痛そうにのたうちまわっています。 先生にぶつかったとき、鼻の頭をしたたかに打ち、内部の動脈が破れてしまったのです。 「しっかりしろ、返水」 先生は奪い取ったカッターナイフをしまい、ウヨ太くんを気遣います。 「日本を守るんだろ? 鼻血くらいで何だ。戦場で傷を負ったら、こんなものじゃ済まないぞ」 「先生ーっ!」 泣きじゃくりながら、先生の身にガバとしがみつくウヨ太くん。 先生もウヨ太くんを強く抱きしめ、離しません。そして、安心したように微笑みました。 「さあ、病院にいこう」 とうとう救急車が呼ばれ、ウヨ太くんは連れていかれてしまいました。 心配していたみんなですが、このあとも映画の上映は続けられると聞いて一斉に安堵しました。 みんな、ウヨ太くんがいなくなり、せいせいした様子でいます。 「恥ずかしい奴だったな。うるさくて邪魔なだけで」 もとより、心乱れた愛国少年の片思いな熱狂など、映画『トラ・トラ・トラ!』の価値とはなんの関係もないものです。 映写が再開されました。 第二次攻撃隊が空母に帰投し、次の攻撃隊が発進しようとするところです。 みんな、期待で盛り上がります。 「いいぞ、また派手な戦闘みられるぞ」 ところが。 兵たちはやる気満々なのに、空母部隊を率いるしぶい顔のジイ様みたいな司令官がこれで攻撃を打ち切り、日本に帰ると言うのです。 「え〜〜〜っ???」「嘘だろ、終わっちゃうの?」「もっと戦うかと思ったのに〜」 年少の観客って、映画のアクション描写にとても貪欲で、『トラ・トラ・トラ!』ほどの量の戦闘場面でも飽き足りず、もっと見たがるものなんです。 上映が終わったとき、ゆとりちゃんはスクリーンに向かって拍手せずにいられませんでした。 それは、日本のつかの間の勝利にでもなければ、理想化して描かれた山本五十六にでもない、何十年も前に日米の垣根を乗り越え、こんな合作映画をつくりあげたアメリカ映画人への賞賛だったのです。 そしてもう一人、ウヨ太くんに付き添って病院へ行ったのでこの場にいませんが、こんな映画を見せてくれた先生に聞かせてあげたい拍手でした。
日教組の陰謀 http://fine.ap.teacup.com/warandpeace/60.html |
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