少年はペナルティマークにボールを置いた。願うのは、このボールが
ネットを揺らすことだけ。手のひらの汗をユニフォームで拭った。
ゴール裏の観衆は全て敵に見えた。それはさながら、何百人もの悪魔
が彼を見下ろし、嘲笑しているようだった。少年は悪魔達に背を向け、
ボールから離れた。遠いところで、中間達が手を繋ぎこちらを眺めてい
る。少年はその顔を一つ一つしっかりと見つめ、頷いた。
少年は再びゴールに向き直った。悪魔達は相変わらず少年を嘲り、
ゴールマウスに立つキーパーはとてつもなく大きく見えた。
少年はボールに目をやった。意識をそこだけに集中する。ざわつく
会場の音が少しずつ小さくなり、それと反比例するように心臓の鼓動が
大きく聞こえた。頭の中でボールの軌道を描くと、少年はゆっくり助走
を始めた。
一歩、右足を踏み出した。キーパーはまだ動かない。二歩、既に雑念
はない。キーパーが一つフェイントを入れる。三歩、視線をボールに落
とす。心はまっすぐゴールに向かう。四歩、左足をボールの横に。振っ
た右足を素早く下ろした。
ぱんっ。ボールは心地良い音と共に弾け飛んだ。少年の思い描いた
軌道を辿りながら。行き着く先はゴールマウス。キーパーが伸ばした腕
をすり抜け、ボールはネットに突き刺さった。
揺れるネット。弾むボール。湧き上がる歓声。勝負告げる笛。少年は
握りこぶしを高く掲げ、仲間達が少年に駆け寄り抱きついた。
歓喜の渦の中で、少年は叫んだ。言葉にはならない、喜びを叫んだ。

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