そいつはいつからか僕の隣にいた。人の形をしているが表情はない。というか顔がない。全身黒タイツを被ったようなナリをしている。そいつは僕の行くところに必ずついてきた。僕が車を運転する時は、助手席でポテトチップスを食い、僕がシャワーを浴びている時は、湯船に浸かり鼻歌を歌っている。しかしそいつは僕以外の人には見えないらしい。僕はそいつをクロと名付けた。
クロは基本的にしゃべらない。コミュニケーションをとるのはほとんど不可能といっていい。話しかけても、たまに愛想笑いを返すくらいだ。愛想笑いと言ってもクロには表情がない。というか顔がない。だけど僕にはなんだかそういう顔をしている気がするのだ。
ある日散歩をしていたら背後から、
「あぁっ。」
という小さな悲鳴が聞こえた。振り返ると、近所の犬がクロに対して吠えていた。どうやら犬にはクロが見えるようだ。そしてクロは犬が苦手らしい。チワワのような小型犬にさえ、クロは極度に怯えるのだ。
月日を共に過ごすうち、クロは僕にとってなくてはならない存在になっていた。何をするにもクロと一緒。そう思うと勇気が出た。
そんなある日、夢の中で、僕はふと疑問に思った。
「クロはいったい何者なんだ?」
僕は目を開け、枕元を見た。クロは静かに体育座りをしていた。それが彼の寝方なのだ。僕は起こさないようにそっと布団を出てクロを注意深く眺めてみた。そこで僕は衝撃的な事実を見つけてしまう。月明かりでクロの背中に光るもの。それはまぎれもなくファスナーだった。クロは今まで僕に背中を見せたことはなかった。僕は生唾を飲んだ。そして恐る恐るファスナーを摘んで、ゆっくりそれを下ろしていった。徐々に開いていく開口部から暗闇に眩いばかりの光が毀れ、その光の中からヌゥと現れたクロの中身が、僕を見てそっと微笑んだ…。
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