第二章(45)〜桜花の吹雪2〜
「母様は、ここでずっと安らかでいてくれるかしら?」
波久は、不安げに重ねた手先を薄淡紅の唇に軽く押し当てたまま、
囁き、瞼を押し開けた。
「きっと、この地に溶けて、日の暖かい春には天を仰ぐ青双葉に変わり、
時が来ればまた地を覆うため冬の寒を凌ぐ衣になる。母様は、生を育む。安らかに違いないよ。」
古都は、少しでも道を照らす柔陽を射してあげたかった。
「ええ、そうよね。」
微笑む、波久に古都は少しほっとした。
黒き蛇が、大きな陽を灯すことはできなくても、
大きな鏡のような眼で陽を反射し照らしてあげたかった。
ぼこ、ごぼぼぼ・・・・・。
ぼごぅぅぅ・・・・。
その安らぎを揺らすように、重低な音が底から響く。
ぼぼぼぼごぅ・・・・。
「何かしら?獣が近くにいるのかしら?」
波久と古都はあたりを見回すが、その周りにその様子はみられなかった。
むしろ、下から突き抜けるような、心を揺さぶるような音。
振動し、心の臓を揺さぶる不可解さ。
『波・・・・ク・・・・、コ・・・・都・・・・』
空耳と区別のつかない、頭の中をかき乱す生々しい声。
それは、二人をたった一言で、取り込んだ。
それは、もう二度と会うこともないと思ったはずの音の並び。
口にしてもらうことなど、ないはず・・・・。
現と朧かわからぬ空気。
現であってほしい。
朧であってほしい。
声にならずにめぐる、こだまは二人を捕らえていた。
゚・*:.。. .。.:*・゜第二章(45)〜桜花の吹雪2〜おわり゚・*:.。. .。.:*・゜