「hana Another story・猫道(2)」
番外
hana Another story・・・・
〜猫道〜第二夜 黒い空〜
私の中にはもう一つの人生があった。
「華凛」(カリン)と呼ばれていた、仄かに香る過去。
16歳になったばかりの春に忘れてきた懐かしい呼び名だった。
”凛と咲く大華のようにあれ・・・”
そう、願って両親が送ってくれた名前。
耳元でかすかに鳴る心地よい余韻がながれてくるようで好きだった。
この名を送ってくれた父は、猫族の長。
3つの集落に分かれていた猫族の一頭の長を担っていた。
名は「五和」(いつわ)。
五体の調和の元に生まれた男として力を尽くしていた。
母は、鈴守りの巫女として使えていた。
名は「華音」(ハナネ)。
香る華のように澄んだ音を奏で風に乗せて守るようにと先代の長が名づけた。
母は、私たち一族にしか見えない鈴の装飾を身にまとう。
それはお姿を隠されてしまった「鈴音彦」(スズネヒコ)様と通じる媒体とされ
長の娘たちは受け継ぐことを誇りに思っていた。
その時期後継は姉が選ばれていた。
姉は、「鈴花」(リンカ)といい歳は二つはなれている。
16歳でささやかな式を終え、一族で鈴の聞き手になるべき後継人に選ばれた。
”鈴の音が花のように鳴る麗しい女性であれ”、それが姉の名に与えられた言葉の命。
18歳になり母を見習って日々力を付けてゆく姉は憧れそのもの・・・。
そのころの私は、潤いお帯びた若葉を求めて野原で姉と歩いたものだった。
兄は、「透音」(トオネ)といった。
20歳になった兄は集落の一つを任され、
名前のとおり”透んだ眼で物を見据え、応えるように音を弾き出し人を導く”
そんな父に良く似ている人。
時折、頭を撫でて褒めてくれる仕草に何度となく助けられた。
大好きだった家族。
父の寛大な心、母の安定した温もり。
兄の逞しい腕、姉の繊細な指先。
すべては夢の世界。
瞳を閉じれば、今もつめの先にかかりそうなのに・・・・。
カツンっと空音だけ立てて弾けてしまう。
『モウ届キハシナイ・・・・・。』
幾度夢で言い聞かせたことだろう。
崩壊した夜に身を再び燃やしながら・・・・。
そう・・・・あの出来事は集落が崩壊する二日前。
近隣国の動きが世話しなく、水面下で動く気配を父が感じ取っていた矢先だった。
燃え粕のように力尽き脱力した大きな体が、集落の入り口に横たわっていた。
兵士として働きに出ていたはずの住人が傷だらけになり、今に消えてしまいそうにあった。
ふっと、その現状が集まる人々の意識を現実から引き剥がした。
「竜の国に気をゆるされますな・・・・。」
最後の息と引き換えに、男は父に残していった。
魔が寄り添い瞳が合った瞬間・・・。
過ぎる不安は的確に、民の心の臓を目指してきた。
竜の国・・・・。
前任の竜頭(読ートウタツ・竜の国当主)がお亡くなりなってからというもの、
その変貌は手に取るようにわかった。
親交の厚かった前・竜頭は兵の任より、穏やかな護衛としての仕事を任せてくれていた。
今の”竜田比古(タツタヒコ)”という男、兄を兵として召し上げることを条件として、
親交の延長を強要した・・・。
集落でしかない、猫族にとって大国の仕事なくして生きてゆくことは困難・・・。
兄は、兵という名の人質に身を投じ、時折人を寄越しては内情を伝えてきた。
「黒い話が立っている。どうやら、見えざる神に取って代わる神都への動きが見られる。」
それは、見えざる神への反逆ともいえるだろう。
見えざる神々が人にゆだねた世界に不安を抱くものを統一しようという動き。
蛇国の永久楼を始め、同じ思想を持ち合わせる者達が水面下で手を握りあっているというのか。
『滅ぶも生きるも人に与えられた定め』
それを拒むは、見えざる神が人に託した選択を揺るがす暗の足音。
hana Another story・・・・
〜猫道〜第二夜 黒い空 終〜
゚・*:.。. .。.:*・゜第三夜につづきます゚・*:.。. .。.:*・゜