春風が運んだ桜花の果て 前編4
布が青草と擦れる音が2重にささやきあう。
古都と華には、それが誰であるかすぐに察することができた。
・・・待ちわびたあの人の訪れ。
幾夜焦がれて待ったか、それは互いに繋がった血が言わずとも知っている。
深くかぶった布を払う様に落とし、彼女が垣間見せた表情は久しく使っていない緩んだ顔だった。
「随分と、時間がかかってしまってごめんなさい。」
そういって、暖かい陽だまりにふわり笑顔が咲いた。
「波久。」
声が先か、歩み寄る足が先か。
古都はそんなことさえ、分別がつかないくらいこの瞬間に翻弄されながらも、
訪れた時間にほうっと胸をなでおろす。
唯、流れる時間がこんなにも、体を縛り付けるものなのか。
縛り付けて身悶えするしかできないものなのか。
耐えた時間が長いほどに圧し掛かる不安が巻きついて、
吐露しそうな想いを唇を押さえて戻すことしか出来ずに・・・。
・・・・ただ、待ちわびた。
「波久、すこし痩せてしまったじゃないか。」
ありきたりな言葉が勝手にでてくる。
こんなことを、始めに話すはずじゃなかったのに、
笑顔で”皮肉”でもいって笑わせてやろうだとか思っていたのに、
実際、ついて出てくるのは他愛もない表面的な言葉。
もどかしいけれど、離れていた時間がそうさせる。
ソレハネ、・・・少シ、カワッテシマタカラ。
波久のしなやかな表情もどこかくたびれているようで、久しく笑った笑顔が痛々しい。
ソウ、僕ラハ変ワッテシマッタ。
取り巻く様々なものが、僕らの身を少しずつ削ってしまう。
河原の石のように、流れに揉まれ姿を変えずにはいられない。
「古都こそ、少し大人びたんじゃない。」
波久は、長らく見ることの出来なかった弟の顔を手にとってゆっくりと確かめる。
少し見ない間に、互いに成長してゆく。
目を逸らしてしまった間の知らない表情。
それが、波久には隙間に冷たい風が吹き込んだ様で心がひやりとした。
「そうだね・・・。」
そういって、古都は姉の掌に任せたまま、
すべての流れが留まってしまえばいいとさえ思えた。
いつまでも、御大蛇に捕らわれている。
こうして、会えても安堵することは難しい。
そうやって、歯車は勝手に回り続ける。
日和の温かい陽射しさえ届かぬ所まで。
柳の力強ささえ無力な世界に・・・。
華の瞳さえ見えない闇の中へ・・・。
終焉まで、双子を誘いつづけるのだから・・・。
゚・*:.。. .。.:*・゜春風が運んだ桜花の果て 前編4 終゚・*:.。. .。.:*・゜
予告:次回より中篇へ突入です。(やっとですね。)
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