春風が運んだ桜花の果て 前編3
「かあさん、随分と久しぶりだね。」
光が古都が歩む先を判っているかのように、道筋をつけている。
導かれる先に、待つように母がそこにいる。
重く存在感を感じさせるのに、その墓標事態はさほど大きくはない。
そっと、苔が色を染め上げている箇所にゆっくりと手をかざす。
今を生きる古都と、生きた者の証がそっと繋がった瞬間だった。
思わぬ感触が掌に染込んでゆく。
・・・・・アタタカイ。
差し込む光が、この石を、母を、生かし続けている。
母の名のとおり”日和”をココに感じる。
掌に、伝わるほのかな存在・・・。
それが何よりも確かなもの。
忘れかけていた体温がそこにあった。
「もうすぐ、波久もくるから・・・」
そういって古都はもう一度、石に触れる。
緑に染め上げられた母は、もう何も語ることなどないけれど
ここに来ることは、ずっと以前から知っているかのように思えた。
だって、こんなにも穏やかな緑が澄んだ日だから・・・。
今日が、当たり前のようで幾年も前から決まっていたかのよう。
「古都さま、日和様のこと憶えておいでなのですか。」
華は、聖域に臆するように足を踏み入れてゆっくりと歩み寄る。
古都と母の間に伝わる絆が、他を寄せ付けないものを放っていたから。
「いいや、ほとんど俺も波久も・・・。母が亡くなったのも突然だった。
病死と聞かされていて、面会もままならないままだったから、最後すら見送れなかった。
今思えば、本当に病死だったのかも良くはわからない・・・。
ただ、そう聞かされて・・・そういえは・・・ああ、懐かしい。
母が亡くなってから寂しい夜にはよく波久と布団に潜り込んで手を繋いで寝ていた・・・。
母さんの懐かしい曲を、一緒に歌って・・・もう、あの頃がずっと遠くに感じる・・・。」
石にかざしたままの掌を見つめ俯く古都を、
華は消えてしまわぬようしっかりと見続けることしかできなかった。
「波久様がおいでになったら、私・・・日和さまに手向ける花を取ってまいりますから。」
私に出来ることは、これくらいの事でしかない、華はぐっと拳を丸め、
唯二人が一時でも昔に戻れることを望むしかなかった。
「そう・・・か・・・頼むよ。」
俯いたまま、本当に来てくれるのか、不安に押しつぶされそうな苦い味覚が押し寄せる。
今はそれに耐えるしかないことなど、古都はわかっている。
それでも、手に届かないもどかしさがいつも付きまとう。
そう・・・ただ、ただ、待ち望む。
この墓を道標にかえて・・・・。
あの子が迷わず、ここへたどり着きますように・・・・。
゚・*:.。. .。.:*・゜春風が運んだ桜花の果て 前編3 終゚・*:.。. .。.:*・゜
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