〜波久、15歳前夜に降りそそぐ星空(中編)〜
「・・・こんなところにいたのか。」
考えにふけっていた波久を急に現実へ引き戻した声の主。
振り返ると、彼の瞳が薄暗い闇のなかに光る双子星のように
金色にきらめいていた。
「古都、何も用がないのならあっちへいって。心配ないから。」
そう、言い放つとしかめっ面をみせてプィっとそっぽを向いた。
これでは、聖人巫女様も台無しなのだが、彼女にはそうしたい理由があった。
ぶっきらぼうに答える理由。
今は、一人でいたい・・・。
明日になれば巫女だが、今日という一日が尽きるまでは単なる「波久」という女の子。
騒がしい宴会の中に身をおいてなどいたくない。
もうすこしだけ、波久でいさせてほしいから。
「おい、誰が戻れっていったか?」
波久の頭をコツンっと手の裏で叩いて、隣に腰を下ろす。
「いい星だな!そう、ここだけは落ちつける。俺も宴会って気にはなれないし。」
古都は、腰を下ろした反動で、そのまま地べたへ転がる。
大の字を身体全体で描いて、窮屈だった精神をのびのびとさせている。
「なあ・・・・・・波久。」
古都は、果てしなく続くような星空を体いっぱいに浴びている。
月明かりが照らす横顔は、虐められていたころの幼い面影が消えている。
それが、なんとも艶やか・・・。
古都は男の子だというのに、月の魔力が魅せているからだろうか。
波久は、ドキリとした鼓動が聞こえていないか少し照れくさくなった。
「巫女になりたくないって、顔に書いてる。ちかうか?」
さすが双子というのか、それともふてくされた態度があからさまだからか。
波久が音にして言えなかった事を、二人だけの秘密だから、と笑って代弁してくれる。
そう、私は巫女に・・・
・・・・・・・ナリタクナイ。
認めたくない本音は、認めてしまうと引き返せないから閉まっておいた秘密。
だから、音にしないでほしかった。
音にすれば、それは言霊・・・。
意味をもってしまう呪いに変わる。
「言わないで!!私の気も知らないで・・・。」
ひざ小僧を抱きしめたまま丸まっては体を硬くする。
もう、わかっているから傷つけないでって、鎧を着るみたいに身を護る姿勢。
きっと、弟は困った顔でしょうがない姉だって言ってる。
わかるもの・・・。
巫女になること知って育ったのに、
今最後の悪あがきしててかっこ悪いって自分でもおもうもの。
「波久、やっと本音白状したね・・・。」
また、手の甲でコツコツと背中を叩く。
コツコツ・・・が、”我慢しなくていいよ・・・”に聞こえてくる。
ずっと、誰かに言ってほしかった言葉が降って来た。
巫女の運命や期待に耐えるように必死でしがみついてきた。
できる限りの力を努力にかえた私の生きる15年・・・。
のこりは供物として、蛇に睨まれた獲物の1年・・・。
それが私の16年。
投げたくなった人生。
目を反らしたかった真実がずっと喉を締め付けていたから・・・。
古都が気がついてくれたの・・・。
糸がぷつり、と切れたように嗚咽して泣いた。
空に積もる星に負けないように、私は涙を降り注いだ。
ただ、古都と星はそれをつつんでくれる。
静かに、ゆっくりと泣き止む時間をくれる。
「俺も、ちゃんと話すことがあるから・・・姉さん・・・。」
古都がささやく重低音は闇と静寂のなか溶けて行った。
星が輝く大空の下、まだ闇夜が双子を掴んで帰さない。
それは、互いの闇が溶け合うまでの時間・・・・。
もうひととき、共に冬風にさらわれる。
まだ、もうすこしだけ・・・・。
〜波久、15歳前夜に降りそそぐ星空(中編)終〜
後編につづくよ!!
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