〜波久・古都 11歳の春〜
「この、疫病神!!」
真っ赤な夕焼けを背にして近所の同じ年頃の子供たちが遊び場になっている森の近くで、一人の少年を取り囲んでいた。
この土地の護血(ユイケツ)の子孫あるのに、
黒蛇の少年は忌まわしい存在として扱われていた。
土地を護るために生まれてきた一族の血を引く者という意味を持つ護血。
この言葉が負担で重苦しい。
いつだって、逃げてしまえるものなら血を全部入れ替えてでもそうしたい。
でも、現実はいつだって追い掛け回してくる。
嫌というほどに・・・。
「波久様と違ってお前は壊すしか能がないのだ!!」
そう、決まってこの言葉を吐露するのだ。
少年はいつもじっと瞳をそらさずにただ耐えていた。
「そんなことはわかっているんだ・・・・」
自分でも嫌というほどわかっていた。
双子の姉とは違う。
不出来だから、破壊の力しか持たないのだと。
蛇の一族として生まれたものは、その強大な生命力にあやかって
五穀豊穣・子孫繁栄をつかさどり御大蛇様におつかえする。
この地に住まうものを導き護ってゆく事こそお役目と親から子へ伝えられていくからだ。
姉にはその力が備わっている。
力とは人を癒し、豊穣をお祈りすることができる事だ。
要因はそれだけでなく、彼女は女性でありながら蛇をもって生まれた事も関係している。
男性神に蛇が宿るとされてきた一族にとって、
その知らせを受けた時驚きと恐怖が混ざっていた。
しかし、民には右の腕に白蛇を宿すことから、
清らかな存在と信じられている。
そう、彼女は奇跡の塊なのだ。
僕とは違う。
自分の左腕の黒い蛇の毒々しさとはうらはらだ。
古都はいつだって自分を卑下していた。
自分だって、力をもって生まれた。
ただ、一族が予想したものとは違っただけ。
『どうして双子で生まれたのだろう。御大蛇様は等しくしてくださらないのか』
空回りする頭の中に、取り囲む子供を追い回す声が入ってきた。
「古都に何かしてみなさい!!ただじゃおかない!!」
このときだけは、清らかな巫女も唯の姉になる。
夕焼けよりも顔を真っ赤にして、波久は古都をかばうように立っている。
子供たちは波久にこういわれると、歯がたたないのだ。
そう、神の血族のお言葉は何よりも威厳があって強い。
彼女が、民に認められている何よりの証拠。
「でも、古都は波久様みたいにできません。作物を枯らしたり
この間は小鳥の命を一瞬で喰らったのを見たというものだっています。
この地を守る護血だというのに・・・」
いい終わるか終わらないかのうちに、波久はもっと顔をまっかにして手をかざしている。
殴るそぶりで、怒っている事を誇張する。
「もう一度いったら許さない!弟は喰らったり枯らしたりわざとしてないわ。きっと古都はこの地の助けになるに決まっている。わかるもの!!わかったら、あっちへ行って!!」
怒鳴り散らして、子供たちを追いやってしまった。
そしてくるりと僕のほうへ向きを変える。
「どうして言われっぱなしなの?負けたらだめじゃない!!」
僕を覗き込んで叱り飛ばしていた。
どうやら、怒りは収まらないらしい。
「いいんだ・・・」
どこかあきらめているから、ほっといて欲しい。
そっぽを向いて歩き始める。
何もいわないでほしい。
もっと惨めだ。
悲惨な弟を哀れんでみないでほしい。
「どうしてよ!」
その前を姉が阻むように歩く。
「本当の事じゃないか。僕は波久のように、人の怪我や病を癒せないし、雨を呼ぶこともできない。できるのは、この花を枯らすことさ!!」
半ばやけくそになって言い捨てる。
そして、足元に咲く花に手をかざし、力を込めた。
暁に揺れている蕾は、急激に花びらを開かせたとたんにしわしわと枯れてしまう。
そう、これが僕の力。
枯らしてしまえと、強く念じるだけでその生き物の命を吸い取ってしまう。
ただ、枯らすだけで何の意味も持たない力なんだ。
民もこの力を欲しがらない。
穀物や、命を救えない力は必要とされない。
何よりも、僕自身がこの蛇印が嫌いなのだ。
「ほら、これが僕だよ。波久。」
そういって、姉を見返す。
姉は急に泣き顔になって僕へしがみついてきた。
泣かせるつもりなんて無かったんだ。
だが、姉は心底心配なんだという泣き顔で僕に訴えかける。
「姉さんは、少しも古都が怖くない。
それに私だって出来ないことは沢山あるわ。
あのね、なにも意味のないことなんてないと思うのよ。良くも悪くもその事には意味があるって・・・。きっと、姉さんと半分こにして生まれてきたから辛いこともあるんでしょう?でも、きっとこの事に意味はあるわ。」
僕の中心を言い当てるように、言うんだね。
どこかで『姉さんさえ生まれたらよかったじゃないか』って、
妬んでいたんだ。
僕が生まれたことも意味があるって言ってくれるんだね。
一人は味方なんだって教えようとしてくれる。
「姉さん。姉さんだけは僕の味方でいて。きっとこの力に負けないから。」
もっと強くなろう。
今は守られているけれど、きっと。
この力に負けない自分でいたい。
「ほら、お前が泣かせたのだから泣き止むように唄いなさい!」
姉さんはご機嫌を取れというように笑顔を絡めて背中にのしかかってくる。
「いやだよ。いつもへたくそって言っているじゃないか。」
姉を無視して歩き出す。
「いいじゃない!古都のバカ!」
姉は不満げに笑う。
夕焼けに向かって家路を急ぐ。
いつまでも続けばいいのに・・・。
いつまでも、いつまでも・・・・・。
〜ユイケツの者 終〜
★補足
護血(ユイケツ):作者が作った造語です。
意味合いとしては、土地を護るために生まれてきた一族の血を引く者。
として使っています。