〜波久、15歳前夜に降りそそぐ星空(前編)〜
波久は、ついに明日で15歳を迎える。
一族の皆は前夜と言って、屋敷の中で飲み交わしている。
彼女が主役なのだが、波久はじっとなどしていられなかった。
このところ起きた出来事が、彼女の小さな胸をちくちくと締め付ける。
その心を少しでも癒そうと、いつもの丘へこっそり抜け出す。
村に降りそそぐように光る星たちが見える場所が、
霧につつまれた気持ちを導く兆しになるような気がした。
明日は花嫁のように着飾って、民は夜通し祝福を送ってくるれる。
神楽を舞って生活の安定を願い、豊作や豊猟(漁)を祈願し、感謝して、
「祈るこころ」を形に表し御大蛇様の巫女として幸多き一年が訪れる様に願う。
しかし、その夜を前にして私は光栄とも神聖ともおもえない。
むしろ嫌悪感が心を支配している。
あの白昼夢をみてからというもの、すべての色がかわってしまった。
私を盛り立てようとする民も、巫女にもとめる御大蛇様も、以前のように尊い光にみえない。
蛇の血族にうまれた者・・・、
李咲様の子孫にうまれた私たち女人は”食べ物”でしかないのだから。
小鳥の首を絶ち、初代の果ヶ芽を奪い取ったときの、あの異常な歓声が今も耳から離れない。
血にまみれた身体と反して、御代の信徒たちは恍惚の表情を浮かべていた。
人の重みを何とも感じてもいないような、ただ神のみぞそこにあると・・・。
それがこの世界の始まり。
そのときのように、明日は舞い踊りながら歓喜するのだろうか?
だとしたら、その世界が続くためにこの身を捧げたくはない。
いつも運命は繰り返してゆく・・・・。
それが私たちが生きている意味なのだとしたら、
ずっと民のため、和やかな国を保つ為だと言い聞かしてきた時間はなんだったんだろう?
なんと、苦々しい。
冬風が彼女の身体を冷やしてゆく。
このまま、冷たくなってしまいたい。
身体が動かなくなってしまえばいいのに・・・。
そうすればこの運命の輪から逃げられる?
古都や父さまの思い出の中だけ生きてゆけるかしら?
真実をしったことで当たり前に決められていた道がなくなってしまった。
その道が本当に歩んでいく道がわからなくなってしまったから。
李咲様と小鳥さんの重いがずっしりとのしかかって来る。
この、星空のどこかで見えない国へつながっているならば、
李咲さま・・・・どうか教えてほしい。
私が進んでいく道はどれなの?
自分で決めなくてはならないの?
この世に一人取り残されたような夜空。
他人がうらやましいと思うように、星が光る。
自分はあと一年しか光っていられないから・・・・周りがの星が妬ましい。
私は、それでも・・・・
きっと、巫女になるのでしょう・・・・。
臆病だから、道を外れる勇気が無い。
父や弟へ向けられる非難をおもうと・・・。
自己犠牲という言葉に満足をしてるに過ぎなくても・・・。
きっと、巫女になるでしょう・・・・・。
静かな夜が、15歳なる波久を包み込む。
それは、闇が彼女を侵食した夜だった。
〜波久、15歳前夜に降りそそぐ星空(前編)終〜
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