2016/2/3

手塚太加丸《土を掘って、土地を見て、場になる》  企画展

昨夜は、「私戦と風景」展の出品作家のひとりで、昨年末から丸木美術館の奥の竹林に小屋を建てて暮らしている手塚太加丸くんのところに泊めてもらいました。

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手塚くんは屋久島出身、沖縄在住のアーティスト。
小屋での暮らしは、手塚くんの《土を掘って、土地を見て、場になる》という作品の一環でもあります。
この作品、そして手塚くんのことをよく知るためには、一晩でもここで暮らさなければならないと、以前から思っていました。

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手塚くんのことを紹介するには、ご両親のことから書きはじめた方がよいでしょう。
彼のご両親は、美学校の最初期の生徒で、菊畑茂久馬さんに教えられていたそうです。
30年ほど前までは埼玉県の入間市に住んでいましたが、屋久島の白川山という廃村で里づくりをしていた、詩人の故・山尾三省さんの呼びかけを知り、移住。
彼は7人きょうだいの末っ子として屋久島で生まれました。

ガスもテレビもない、囲炉裏を囲んで暮らす生活の中で育った彼は、鹿児島の高校を卒業した後、沖縄県立芸術大学に進学します。
そして卒業後も沖縄に残り、那覇でシェアハウスやシェアアトリエを運営しながら、故郷の白川山で竹や木を使って人の集える場所を作り、夏のあいだそこで暮らすという「しらこがえり」というプロジェクトを行ってきました。
http://www.as-tetra.info/archives/2014/140531171735.html

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今回の企画で、丸木美術館のまわりで暮らしたい、と提案されたとき、はじめはよく意味が解らず、テントを張ってキャンプをするのかと思いました。
雪も降るかもしれないし、若者がこのあたりの冬の寒さを甘く見ているのであれば、ひどい目にあうだろうと思い、許可しつつも「何よりまず人命尊重」との約束をしたのです。

しかし、最初は正方形の小さな箱のようだった彼の小屋は、日を追うごとに“成長”し、大雪の後には屋根がつぶれないように三角形になり(彼が雪を見たのはほとんど初めてだったようです)、入口の前に床が張り出してドラム缶の囲炉裏ができ・・・といった具合に、いつのまにかすっかり家らしくなっていったのです。
もちろん、彼のそうした仕事には、屋久島育ちで培った無形の財産が生かされているに違いありません。

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彼は寡黙なので、美術館スタッフもどのように接していいかわからないまま、しばらくはただ遠巻きにしていました。
「気配があるから、今日は小屋にいるらしい」と、まるで野生の生き物を見ているように。

ひとつの転機になったのは、12月末の大掃除でした。
「手伝います」と自分から言い出した彼に、この後の忘年会も良かったら一緒にどうかと誘ったところ、嬉しそうについてきました。
ボランティアたちと初めて交流した彼は、やがて地元の材木屋を紹介され、小屋から働きに通って、結局、展示用の木材もほとんど無料で提供してもらったようです。
そして、地元ボランティアが焼酎を差し入れに持って来たり、全国から“救援物資”が次々と届いたり、彼の“場所”は少しずつ、不思議な磁力を持ちはじめたのです。

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実は彼が選んだ場所には、かつて丸木夫妻が竪穴式住居を建てていました。
しかし、長い間風雨にさらされ、ほとんど朽ち果てていたのです。
小屋を建てるために、彼はまず、朽ちた木材を片づけるところからはじめました。
土を掘ったら、丸木夫妻が焼いた土器の破片も出てきました。
そうした歴史の痕跡をたどりながら、彼はこの場所に再び命を吹き込んだのかもしれません。

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今回、彼は小屋で暮らすだけでなく、展示室に床を張り、部屋の中央に巨木を立てています。
一本柱のような巨木は、正面から見るとただの巨木ですが、横から見ると実は隙間だらけになっています。手塚くんによれば、これは床と外の小屋を結びつける存在であると同時に、協力してくれた製材所の置かれている(バブル崩壊後に多額の借金を背負った)窮状、日本の林業の現状を表しているそうです。

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いわゆる“展示”を作ったのは、彼にとって初体験とのこと。
もっとも、巨木はともかく、床を張るのが果たして“作品”なのかはよくわからないのですが、「床を張るの好きなんです。いいですよね、床・・・」とつぶやく彼に、「うん、いいよ、床・・・」と思わずうなずいてしまいました。
黙々と床を張り続ける彼の姿は、理屈抜きで見る人の心を打つものがあり、この間、多くの丸木美術館関係者を惹きつけているのです。

釘などをほとんど使わず、隙間なく並べられただけの床は、歩くと程よく揺らいで、その感触が心地よいです。部屋全体から漂ってくる木の香りにも、穏やかな気持ちにさせられます。
やはり手塚くんは、この室内の空間でも、みんなが展示をすることのできる場所づくりをしたのかもしれません。

その土地に場所をつくり、暮らし、人とかかわってみる、という彼のプロジェクトは、非常に興味深く、心を惹かれるものがあります。
これからも、あちこちの場所に、こうした家をつくって暮らしていくのでしょうか。
「問題なのは、これを作品と言っていいのか、よくわからないんですね。それが自分の課題です」
鍋をつつき、酒を飲み、そんな話をゆっくりしながら、深々と夜は更けていきました。
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2016/2/5  17:07

投稿者:上原弘子

面白いですねぇ...。facebookの方をシェアさせていただきました。


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