2015/12/30

もう一つの日本文化(「カムイ達W」)  文化・芸術
 「やっぱりメナシウンクル(東のアイヌ)は、俺らサルウンクル(沙流川沿いのアイヌ)とは違った顔をしているなァ」

 この挨拶から、二人の対面は始まった。
 お二人とも堂々たる体躯で年齢からも「エカシ」と呼ばれるべきアイヌである。

 一人は浦川太八さん。もう一人は、ここ数回エッセイを提供いただいている「平取町貫気別在住のアイヌ男性」である。(以下、「エッセイ氏」とする。)

 お二人は面識がない。エッセイ氏から「浦川太八さんに会ってみたい」との意向があり、先の日曜日(12月27日)にお連れしたのだ。

 エッセイ氏は、「新冠牧場に係る強制移住」を受けたアイヌの末裔でもある。このことは、浦川さんとの挨拶の中でも触れていた。

 滞在は、昼食を含めて2時間ほどだったろうか。

 お互いの現在の暮らしぶりから、それぞれの子供時代を含め、昔のアイヌを取り巻く話に花が咲いた。

 どちらかというと、浦川さんは寡黙、エッセイ氏は饒舌だ。

 子供時代、それぞれの居住地区のアイヌと日本人の割合は、浦川さんはアイヌと日本人が半々、エッセイ氏はアイヌ8割だったという。

 その後の変化はというと、浦川さんは「日本人が平地の畑と山を押さえたので、自分の家以外のアイヌはいなくなった」という。

 エッセイ氏は「地区は人口こそ8割減ったが、アイヌの割合は変わっていない」とのこと。

 お二人とも、とても楽しそうだった。お二人とも日常は、仕事でも暮らしでも圧倒的多数者である日本人の中で暮らしているのだ。ストレスもあるだろう。

 この日のお二人は、日本人である私の入り得ぬ世界に居た。
 浦川さんが、昔の写真を数枚出してくる。

 1歳の浦川さんが父親と共に写っている「20人程のアイヌの集合写真」。中央には2頭の小熊が、それぞれアイヌに抱きかかえられている。小熊は、嬉しそうに抱きかかえられているアイヌの顔を舐めている。浦川さんの年齢から考えて、撮影は昭和17年〜18年だろう。

 ものすごく大きな羆が地面に横たわっており、得意そうに真正面を向いているハンターの写真。30年近く前の浦川さんの写真だ。羆は300kgほどあり、大人10人で引いても動かすことが大変だったという。

 前列に4人の女性、後列に4人の男性、計8人の写真があった。
 女性は、全員20歳代だろうか、日本の着物姿だ。男性は、20歳代後半から30歳代前半だろうか、全員、長袖シャツと長ズボン。服装はいずれも上等な品に見える。

 「ピリカメノコだなァ」エッセイ氏が声に出して言う。
 確かに前列4人の女性は、日本の着物は着ているが、皆、端正な顔立ちをしており、アイヌだ。
 「前列の一番右が、母親だ」浦川さんの声。

 「えっ、これが浦川タレさん!?」私は、声には出さないが驚いた。
 浦川さんの親戚の写真だという。

 浦川さんの母親(明治32年−平成3年)は、アイヌ神謡等口承をはじめ、アイヌ樹皮衣の制作など幅広い民族文化の伝承者として有名な方で、北海道文化財保護功労者として表彰もされているが、知っている写真は晩年のもの、おばあさんの姿しか見たことがなかったからだ。

 若い頃はものすごく端正な顔立ちをした美人だったということを知って嬉しかった。
 ということは、この写真は、大正時代か?

 「・・・ところで、この外人は誰よ?」エッセイ氏が、後列の右端と左端の男性を指差す。
 見ると右端は、中東系?アフマドとかの名前が似合いそうだ。

 左端は、アメリカの若手人類学者だろうか?とても理知的な顔をしている。アイヌの調査に来たのだろうか?

 浦川さん「・・・アイヌだ。・・・」

 エッセイ氏「え?・・・(絶句)、(しばらくの沈黙の後、気を取り直して)・・・いやァ、この俺がアイヌを見間違えるとは・・・、いやァ、まいったなァ」

 エッセイ氏は、ご自身で「俺には、一滴だって日本人の血は入っていない」と豪語するだけあって、普通の日本人10人が氏を見たら、10人が全員ともに氏を日本人とは思わないだろう顔立ちをしている。

 氏は、平素から「俺は四分の一でもアイヌの血が入っている奴は、見分けがつく」と明言していただけに、ばつが悪そうに照れ笑いしていた。

 *おそらく、氏は、その顔立ちから、多くの場所で日本人から差別等を受けたと思う。そういった環境から「アイヌを見分ける識別眼」には自信を持っていたと思う。

 昼食は、浦川さんが仕留めたシカ(エゾシカ)のオハウだ。久しぶりのシカのオハウはとても美味しい。シカは4歳のメスだという。あばら肉は、ほどほどに大きく、柔らかだった。

 帰りには、浦川さんが獲ったサケの寒風干しと飯寿司、シカのチャーシューをお土産にいただいた。

 帰路の途中、静内の市街地を抜け少し行った所で、エッセイ氏から「見せたいものがある」と案内された。

 平成18年11月に建立された「新冠牧場に係る強制移住」関係の碑だ。強制移住については、今後も活動の予定があるという。協力を依頼された。

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 帰路はもう一箇所、貝沢徹さんの店(工房)に寄った。徹さんの店(二風谷)とエッセイ氏の自宅(貫気別)との距離は約10km程であり、共に平取町内だ。

 お二人は、アイヌ協会の同じ支部に属しており顔見知りだ。
 徹さんから、耳寄りな情報があった。

 今年6月に訪問した際、【日曜美術館が来て、イタ([二風谷イタ]、国指定の伝統的工芸品)制作の撮影をしていった】との話は聞いていた。

 それが、この正月(1月3日(日)午後9時〜午後10時30分)の【NHK日曜美術館】で放映になるという。

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 「1時間ほど撮影していったから、出るのは2、3分かな?、もしかしたら5分位かも」という。
 楽しみだ。徹さんの近年の活躍は著しい。特に海外関係はそうだ。

 例えば、ここ2年ほどの間に、私の知っているだけでも、カナダ、ハワイ、イギリス(オックスフォード、大英博物館)、フィンランド、ロシアなどで、実演ほか、何らかの活動をしている。

 アイヌ木彫の世界で、藤戸竹喜さんや浦川太八さんのような長老格は別として、現時点で脂が乗り切ってバリバリ仕事をしている第一人者は徹さんだろう。

 今年10月の「フィンランド、ロシア訪問」の際は、サンクトペテルブルグの博物館訪問を聞いていたことから、事前にある提案をした。

 それは、同博物館所蔵のマキリ(1912年、学芸員が平取町で収集)と私所有のマキリが酷似しているので、同博物館学芸員と意見交換してほしいということだ。

 意見交換をした結果、「制作者は同一」との見解に至ったとのこと。長年の懸案に一定の答えを得た。これも嬉しいことだ。

<私所有のマキリ写真>
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<現地にて、徹さん撮影のマキリ写真>
*徹さん撮影のスマホ画面を撮影したもの
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 また、徹さんの同博物館訪問は、彼自身にとっても嬉しいことがあったという。

 それは、同博物館所蔵品の中に彼の曽祖父(貝澤ウトレントク氏)の制作したイタを見つけたことだ。博物館の記録では収集地までしか判明できないが、徹さんには彫り方で見分けられるとのことだ。

 ともあれ、徹さんの今後の活躍が楽しみである。後世に残るアイヌ作品を世界中に広めていただきたい。

 さて、お待ちかねのエッセイ「カムイ達W」をお届けする。

 【カムイ達W】
 
 コォコォと鳴きながら、西から冬の使者レタッチリ(ハクチョウ)が冬将軍を連れて飛んできた。
 今年はどのくらいの冬を連れてきたのか、聞いてみたいものだ。

 朝早く、私の頭の上を羽音が聞こえる程低空で飛び、東の方へ向かっていった。いったい何をしているのか。

 夕方、遅くなって帰ってきては、私の家の近くにダム湖で休んでいるようだ。外敵には気をつけろと思いつつ見送る。

 生来の寒がりの私が、そんな寒さを忘れる一瞬に出会える出来事があった。

 いつも仕事で通っている標高300メートル程の峠に差しかかった時のこと、車中から外を見ると、いつも見慣れている景色が一変していたのである。

 昨夜の雨上がりで、雲海が出現したのだ。一瞬、別の世界かと思う程の神秘的な美しさだ。

 俺は60余年の人生の中で、これほどの美しさを目の当たりにしたことはなかった。
 感動していた。まるで、神の造形と思わんばかりに・・・。

 一時車を停めて、そんな光景を夢みごこちに感じつつ現場へと向かう。
 その現場近くで運転していた同僚が驚きの声を上げた。

 若い雄ユクが道路を横切ったのである。「おー、あぶない!」と皆が声を上げる。
 最近、ユクの雄叫びを聞かなくなった。ユク達にとっては、命に関わる鹿猟が解禁になったのだ。

 日曜日になると、山中はハンターがウヨウヨだ。
 鹿の数よりも人間の方が多いのではないかと思うくらいだ。

 今年も、鹿による農林業への食害が50億円くらいあり、それを食い止める役目を負わされているハンターも必死だ。
 
 また、それ以上に生き残らなければならない鹿達も死に物狂いだ。

 普段は私達の所へ近寄ってくるが、ハンターの車が来ると、アッという間に森のカムイ達に助けを求め、森林に逃げ込む。ユク達も中々のものだ。

 さあ、今日の仕事も終了。
 いつも見送ってくれるエアミが朝から一羽も見えない。どうしたのか?

 今日は土曜日、明日は休みだ。
 家に帰ったら、カムイ達が無事ハンターから逃げ延びることを願って、焼酎で乾杯だ!

 カムイ達よ、またな!

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 *この写真は、数年前私が撮影したものでエッセイ内容とは無関係です。 
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