私は精神科医を続けながら、「健康な心とはどのような状態なのか」「どうすれば心の健康を保つことができるか」というテーマについて考え続けてきました。現在たどり着いた結論は、心の状態は「個性」と「環境」によって決定されるということです。その人の個性を育てるのも生育環境です。ですから、心の健康を保つためには、良い環境で生活するということが重要です。
身体の健康を維持するために、自然環境はとても重要です。人間は、水と食物と空気(酸素)を摂取し、老廃物を排泄し、自然環境と常時関係し合うことによって生きています。
心の健康を維持するためには、社会環境(人間環境)が重要です。親子関係、家庭、交友関係、恋愛、職場や学校での人間関係が、心の健康に大きな影響を及ぼします。個人の生活環境をさらに大きく取り囲む環境があります。国家とか世界情勢です。それらは、地域社会、職場や学校、家庭環境に対して目に見えない力で影響を与えています。一人一人が個人的な生活環境を整えながら、もっと大きな環境、すなわち地方自治や国の政治、世界情勢などに目を向け、それらを良くしていくために努力することが大切です。
現在、世界全体で自然環境も社会環境も悪い方向に向っています。人間のエゴ(利己主義)と「今さえ良ければそれで良い」という刹那主義によって、自然環境は破壊され続け、弱肉強食の競争社会、格差社会が強化される方向に進んでいます。その流れを変えようと、地道に自然環境保護に取り組む人達がいます。また、政財官マスコミの癒着、すなわち「政治家と官僚と富裕層とマスコミが結託して、一般国民から搾取し続ける現在の政治経済システム」に戦いを挑み続ける活動家達がいます。一人一人の人間の力はちっぽけですが、連帯すれば大きな力になります。地方自治を変え、国を変え、世界全体を変える力を人間はもっています。心ある人が力を結集すれば、この国を今すぐにでも変革することが可能です。
「人間的な心を見失わないこと」「あきらめないこと」が大切です。敵は、社会であり、自分自身です。現代社会を影で操る権力者達と闘いつつ、その権力者達と同じ欲望をもっている自分自身と戦い続けることが大切です。心の健康を保つ秘訣とは、日々闘い続けることです。
生きるということ、それ自体が闘い続けることだと言っても過言ではありません。文明社会が発達する以前は、人間は自然環境と闘いながら暮らしてきました。人間の免疫系システムは、常時細菌やウイルス、体の中に発生するがん細胞などと戦い続けています。それは静かで、気が遠くなるほどの長期戦です。人が生まれて死ぬまで、免疫細胞の静かで絶え間のない戦いは続きます。
心の健康を保つためにも、闘い続けることが重要です。敵は外界であり、自分自身、特に自分の心の中の影の部分です。ただし、戦いには休息が必要です。頑張り過ぎると、エネルギーを失って、うつ状態に陥ってしまいます。集中とリラックス、仕事と休息とのバランスをとることが重要です。
また、人間的な心を見失わないために、心ある人とふれあうこと、遊ぶこと、笑うこと、気持ちの良いことをして、気持ちの良い時間を楽しむことこと、芸術作品や自然を鑑賞すること、感動することなどが大切です。自分で自分の心を育てるために、心に十分な肥料をあげることが大切です。また、心を育てるためには、時々試練に直面することも必要です。ストレスやトラウマを嫌なものだと思わないでください。それらは心を育てるために必要な試練です。ストレスやトラウマがもつ建設的な意味に目を向けることが大切です。過去の苦悩や苦痛が、現在の自分を育てるために必要な体験だったということにいつか必ず気づきます。
人は生かされて生きています。足りないものを嘆くより、恵まれている面に眼を向けて、感謝の気持ちをもって生きることが大切です。政治と経済の問題、社会問題など、現代社会はたくさんの問題を抱えていますが、戦前の軍国主義の日本、発展途上国の飢餓や貧困、今なお戦火の下で暮らす国と比べると、日本はとても幸福な国だと考えられます。科学技術の発達は生活を豊かにし、海外旅行も気安く行けるようなりました。政府を自由に批判する言論の自由もあります。日々人間は多くの人に助けられ、支えられて生きています。自分が恵まれて生きていることに気づくこと、感謝の気持ちをもち、決してごう慢にならないことが大切です。
佐藤初女さんの言葉「祈りのうちに今を生きる」ことが大切だと思います。希望をあきらめることなく、何事を行う時も祈ることが大切だと思います。また、過去にも未来にもとらわれ過ぎず、今この時間に集中して、今を一生懸命に生きることが大切だと思います。