5、長所を見つける
欠点を直すよりも長所を伸ばせと言われていますが、それは本当です。人間は無数の欠点を抱えているので、欠点を一つ一つ直していこうとしても限がありません。人に迷惑をかけ、自分の人生を狂わせるような大きな欠点は改善していく必要がありますが、自分がもつ欠点を全部直す必要はありません。そんなことに取り組んだら、一生掛かっても終わりません。一つの欠点が改善されたら、必ず別の欠点が気になるようになります。
悩みを抱えた若い患者さんが時々「〜さえ直ったら、後はすべて上手く行くのに」と言うことがありますが、人生はそんな簡単なものではありません。〜が直ったら、必ず別の問題に悩むようになります。人間は、悩みや葛藤を抱え、失敗を繰り返しながら、精神的に成長していくという宿命を背負った生き物だと思います。
私は医療を生業にしているので、つい人の欠点に目を向けてしまいます。どのような問題が患者さんの心の病気の原因になっているのか探ろうとしてしまいます。精神科医なのだから、患者さんの欠点ではなく、長所に目を向け、それを伸ばしてあげるようなカウンセリングをすれば良い、と頭では分かっているのですが、つい医者の習性として、患者さんのどこが悪いかを探ろうとしてしまいます。
医者でなくても、誰でも人の欠点には目が向きやすく、長所には目が向かない傾向があります。「家族一人一人の長所を上げてください」と言うと、困ってしまう人が多いです。一番困るのは、「最後にあなた自身の長所を教えてください」と尋ねた時です。自分の長所が何なのか、気がついていない人が多いです。
人間は、他の人なら全体像を見ることができますが、自分自身の姿は、鏡に映すか、ビデオに撮らないと見ることができません。鏡やビデオは、光の加減でいくらでも違って映るので、普通に生活している時の自分の姿を自分自身が見ることは不可能です。ですから、人間は自分自身のことが一番良く分かっていないのです。自分の欠点については、過剰に認識していますが、自分の長所に対しては全く認識できていない人が多いです。自分がたやすくできることは、できて当たり前だと感じてしまうからだと考えられます。
自分の長所を冷静に分析し、自覚できている人は少ないです。ですから、他の人の長所を見つけたら、それを指摘してあげることが大切です。相手の長所を見つけ、それを指摘してあげること、それは良い人間関係を築くための一つのテクニックです。自分自身が気づかなかった長所を指摘してもらうことは、非常にうれしいことです。指摘されなかったら永遠に気づかなかったかもしれません。それほど自分で自分を知るということは難しいことなのです。それで、自己分析するためには、カウンセラーによるカウンセリングが必要になるのです。
精神医療において、患者さんの欠点を直すよりも、長所を見つけ、それを伸ばしてあげることが大切です。学校教育、家庭教育でも、それがとても大切です。人間は一人一人が神様から何か一つ長所を賜って、この世に誕生していると私は信じています。誰もが必ず長所を一つ以上もっています。「私には何のとりえもない」と言う人がいますが、それは自分の長所に気づいてないだけです。その子の長所を見つけて、それを伸ばしてあげることが、教育の目標です。そして人は大人になったら、自分で自分自身を育てていかなければなりません。

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